恋する食べ物?

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 僕は冒険者が寝泊まりと食事をする宿屋・桑の木の息子だ。  平々凡々で、容姿も中身もごく普通。  毎日一階の酒場で、料理や酒を作って運ぶのが、僕の仕事だ。  そんな僕は、恋をしている。  ご飯だけを食べに来る、王国騎士団の騎士の一人――ラークに片想いをしている。  ラークはサラサラの艶がある黒髪をしていて、目の形は猫のよう。瞳の色は紫色だ。形のよいその目を僕に向けて、ラークは料理を毎日注文する。夜になって仕事が終わると、夕食を食べにやってくるのである。  今日もラークがやってきた。心待ちにしていた僕は、思わずラークの麗しい顔に惹きつけられる。長身のラークは、ほどよく筋肉がついた体つきだ。手足が長く、スタイルがいいから、騎士団の正装がよく似合っている。騎士団の正装は、ワインレッドの片マントと、その下にはシャツ、リボン、ジャケットだ。上着の色も深い赤だ。 「オリビア、今日の定食はなんだ?」  カウンターに座したラークが、微笑しながら僕に声をかけてきた。  日替わりの定食を、この酒場は提供している。僕は宿屋の息子だが、ご飯屋さんとも言えるだろう。 「今日は、マルウォッツァと馬鈴薯を茹でたものです」 「では、それを。他には、ビールを」 「はい!」  僕は勢いよく返事をした。マルウォッツァというのは、この国の名産の白身魚だ。  このマジルスタ王国では、メジャーな料理である。どのくらいメジャーかといえば、ハンバーグと同じくらいだ。  注文を受けた僕は、既に作り置きしてあったものを皿に盛り付ける。付け合わせのレタスを用意し、コーンスープを器にすくう。ビールは先に出した。  料理の用意をしながら、時折僕は振り返り、ラークを見てしまった。  本当に、格好いい。ラークはみんなの憧れだ。恋している者も、男女を問わず多いから、僕にはライバルがたくさんいる。  それは仕方が無いことだろう。  僕のように平凡では、ラークのような美形で実力のある、その上性格が――たまにちょっと意地悪だが、基本的には優しい人とは、釣り合わない。美形と平凡の恋なんて、物語の中にしかない。現実は厳しいのだ。  ちなみにこの国の国教は、聖ルチス教で、その聖典の教えの中に、愛さえあれば性別は問わないという記述があるため、同性愛も多い。
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