ピンクのランドセル

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ピンクのランドセル

 通学路でも咲耶の装いは目立って仕方がない。道行く人たちが好奇の眼差(まなざ)しで彼女を見ていた。  しかし目立つのも当然だ。女忍者(くノ一)の恰好をした美少女がピンクのランドセルを背負っているのだ。いくら忙しい朝の通勤中のサラリーマンたちもスルーするのは難しいだろう。 「やっぱこの辺りで一発、伊賀忍者との血で血を洗う活劇(アクション)シーンが必要かしら?」  しかも咲耶は、自撮り棒で撮影しながらサラッと怖ろしいことを言った。 「いやいや、どんな演出プランですか。登校途中に血で血を洗うようなアクションシーンなんかやめてくださいよォ」  ただでさえ目立つと言うのに、派手なアクションシーンなど論外だ。 「なにを(たわ)けた事を言ってるのよ。今やSNSの時代なんだから。甲賀忍者もSNSを活用していかなきゃ、生き残っていけないのよ」  自撮り棒で撮影しながら言い返した。 「はァ」呆れて二の句がつげない。  とてもではないが、口喧嘩では咲耶に勝てないだろう。 「よォ、藤丸ちゃん。おはよォ」  不意に背後から男の子に声を掛けられた。 「ン?」振り返ると元気そうな男子が駆け寄ってきた。  ボクが副担任をしている六年Z組の生徒だ。名前は張本健一と言った。 「あ、おはよう。ハリー」  ボクは彼のことをハリーと呼んでいた。 「ヘェッ、なんだよ。売れない地下アイドルか。妙ちくりんな女忍者(くノ一)のコスプレなんてしちゃってェ?」  ハリーは咲耶をバカにするようにあざ笑った。 「フフッ、ねえェッ影丸。この子、二度と口がきけないように、半殺し(ボコボコ)にしちゃって良いかしら?」  咲耶は笑みを浮かべ、怖ろしいことを平気で言った。知らぬ間に手には手裏剣を隠し持っていた。 「ダメですよ。ボコボコにしちゃァ」  可愛らしい顔をしているクセに怖い子だ。  お願いだから通学時は大人しくしていて欲しい。
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