Siriの穴へ

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Siriの穴へ

 ボクが副担任をしている私立魔界野小学校は田無市(たむシティ)駅から歩いて五分あまりのところにあった。駅前は開発が進んでいるが、少し進むと田園ばかりだ。  表記は田無市(たむシティ)だが、市の名称とは逆に(あた)り一面田園に囲まれていた。懐かしくてエモーショナルな気分だ。  一応、メガロポリス東京の一角ではあるが、のどかでノスタルジックな田園風景が広がっていた。 「フフゥン、オレ、ハリーね。よろしく」  ハリーは馴れ馴れしく咲耶に自己紹介をした。年上の女性に対しても物怖じしないタイプだ。 「えェッ、ハリー?」怪訝な顔で少年を見つめた。 「そうそう、本当は張本健一って言うんだけど、みんなハリーとか、ハリーケンとか呼んでるんだ。彼女は?」  ハリーは純朴なボクとは違ってホストみたいに饒舌(じょうぜつ)で女子の扱いに()けていた。小学六年生のクセしてヤケにませている。 「フフゥン、咲耶よ」  自撮り棒で撮影を続けながら彼女は笑顔で応えた。 「へェ、咲耶(サク)ちゃんか。どこの女子高校(じょしコー)なの?」  ハリーは撮影に加わって来ようとした。 「女子高生じゃないわ。今日から伊賀の影丸(カレ)の小学校へ通うのよ」  チラッとボクの方を見た。 「えェッマジで。ウチの小学校へ来るの?」 「まァねえェ……」ボクもうなずいた。 「そうなのよ。咲耶はどさくさに紛れて小学校を卒業せずに甲賀の里、『Siri(シリ)の穴』へ放り込まれたの」 「マジかよ。Siriの穴に入れられちゃったのか?」  ハリーは肩をすくめておどけてみせた。 「ぬうゥ……」なんとなくエロい会話だ。  あまり通学中の周りの小学生たちには聞かせたくない会話だ。 「ええェ、それは、それは激しかったわ」  だが咲耶はさらに過激な事を言っていた。 「へえェッ、マジかよ。激しくSiriの穴へ」  ハリーは楽しげに聞き返した。 「わァーーッ、それ以上、小学校の通学路で話すなァ!」  堪らずボクは怒鳴りつけて話しを遮った。 「フフッだから私は小学校中退なのよ」 「いやいや、そんなはずはないんだけど」  ボクは否定した。  小学校は義務教育なので、たとえ不登校でも卒業できるはずだ。
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