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「だけど、花梨はさ、学のことだけは楽しそうに話すんだ。付き合う前も、付き合ってからも。学と一緒に住むこのおうちのことだって、オレにたくさん話してくれたよ」
ブン太は水道水を一気飲みして、空になったコップをテーブルに置いた。
「オレ、ずっと、花梨のことはオレが守るって、思ってきた。だけど、オレは犬だから、ずっと傍にはいられない。……いつか、花梨を置いていかなきゃいけない時がくる」
ブン太の眠たそうな目から、ぽろぽろぽろぽろ、涙をこぼれ落ちていく。
「だから、花梨のことはお前に任せる。絶対絶対、花梨と一緒に幸せになれ!」
犬は飼い主への忠誠心が強い生き物だと、話に聞いたことがある。
でも、ブン太のは、忠誠心ってより、愛情だよな。
花梨に、幸せになってもらいたい。
こんなに切実な思いをぶつけられたら、応えるしかないじゃないか。
学はブン太をぎゅっと抱きしめた。
「俺は、花梨と幸せになる。……お前の分も、彼女を愛し続けるよ」
「……約束だからな」
「ああ……約束だ」
安心したように笑ったブン太の身体が、優しい光に包まれていく。
そして、ブン太は、姿を消した。
淡い光の粒だけを残して。
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