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花嫁の犬
仕事からの帰り道、西田学はちらりと背後の様子をうかがった。
間違いない。誰かに後をつけられている。
明日は花梨と俺の結婚式。
ほがらかな性格で、男性社員の間ではひそかに「お嫁さんにしたい女性ナンバー1」の称号を得ていた花梨と、容姿も能力もほどほどな俺。
結婚すると知られた時から、男連中には大層うらやましがられて、やっかまれた。
そして、明日はいよいよ結婚式。
なのに、夜道で後をつけ回されてる。
これ、ただの死亡フラグじゃないか!
不吉な予感を振り払うように、学はぶんぶんと首を横にふる。
このまま、ありもしない死亡フラグに怯えてても仕方ない。
学は思いきって後ろを振り返った。
「おい、誰だ……」
背後に立っていたのは、小学生くらいの子どもだった。
グレーのスーツに蝶ネクタイ。
焦げ茶色の髪。
ぶちゃむくれなのに、どこか愛らしい顔立ち。
眠たそうな目で、学をにらみつけてくる。
どこか見覚えのある、この目。
いや、まさか。でも……。
「お前……まさか……ブン太か?」
ブン太は、花梨が飼っているパグだ。
騎士よろしくいつも花梨の横にいて、学をにらみつけてくる。
「そうだ」
可愛らしい見た目にそぐわぬ、ふてぶてしい態度でブン太は続けた。
「西田学。お前に話があってきた」
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