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あ、いた。久しぶり、ホシヒロ。何より楽しそうで良かった。今日は私のためにわざわざ来てくれてありがと。どうしてもホシヒロに話をしたくて。あ、浮気じゃないから。ちゃんと言ってるし? いろいろ理解してくれたパートナーだから。
お久しぶりです、ツキネさん。どうして誘ってくれたんですか? この店がオープンしたばかりとか、ツキネさんがパンケーキ好きとかそういうのは分かるんですけど。どうして、僕ですか。もう三年ぶりですし。それに元恋人に会っていいと許可を。それだけ自信があるって、奪われないって。
結局、ホシヒロはまだ私のこと好きなんだ。ふふ。私は一途だけど、ホシヒロのことまた友達にしたいって思ってる。かわいい後輩だから。
分かりました。そういう人でした! まあ、誘われて嬉しいというか、この時間だけはそれなりに楽しみだというか。取り敢えずメニュー頼んでそれから。
今日はたくさん話そう。イチゴソースとホイップクリーム、ってこれ二段じゃない? 私これにしよう。
いやシングルもあるみたいです。値段的にも二種類頼んだ方がお得だと思います。少なくとも僕ならそうします。
私一つの物をゆっくり食べるのが好きなんだけどなあ。
僕にとっての挑戦状ですか? 明らかにそういうことですよね。
せっかち。分かったわ、今日だけはホシヒロの言う通りに二種類を味わう。同じ味でも飽きないけどね。よし、チョコバナナにしよう。って嫌いだよね、目の前で食べてもいい?
あのときはいろいろありましたし目の前で苦手のもの食べてたら怒るかもでした。でも今はまあ人に強制してませんから。好きな物を食べるのが結局幸せだって。
そっか。ならこの二種類に決定! って感じね。ホシヒロは何を食べる?
三段にします。いろんなソースやフルーツが付いてて飽きないようになってるみたいです。お得なバラエティセットみたいな。三段がいいんですよ、ちょっと多いかもしれないですが。
ホシヒロらしい。けど好きな物が来るか分からないでしょ? 運命を受け入れてやる! みたいな感じだったかな。
メニューにない得体の知れないものがドカーン! みたいなことはきっとないと思います。いろいろあるんだなって思いながら食べます。
すみません、注文良いですか? これとこれが一段で、これ、三段です。はい、はい。お願いします。
メニュー名で注文するんじゃ?
長くて言いにくいからね。仕方ないでしょ? それにしても楽しみだね、パンケーキ。ここの、本当に美味しいみたいだから。一度来たくて。初めて。
はいはい、誰も来たがらなかったのもありそうですね。だから僕を呼んだと。ツキネさんが好きで馬鹿みたいな呼び方しても来て、良かったですね。はあ。
悪かったとは思ってるよ、多少は。さて、注文したことだし何か話そう!
話があるみたいなこと言ってませんでした? 急に話を振られても何も準備してませんが。三年の間に何があったとか? いや、パートナーの話聞きたくない。最近流行りのドラマとか映画とか?
バタバタしてて観てないな。おすすめがあったら観ようかな。
盛り上がりそうにないのでやめます。僕の今の生活とか? いやキラキラしているツキネさんからすれば惨めすぎるか。
そんなにきついの? 私のせいだったりする?
少しは。否定はしませんよ、実際にそうだと思っているので。そんな顔されても、……ツキネさん悪くないですよ。全部僕の怠惰が引き起こしたことだと考えればいいと思いますよ、本当に。
そうなのね。多少は聞きたい。
嫌です。今から僕の好きな曲でも聴きます? 暇ですし。恋愛ソングはちゃんと避けるので。それなりに聴いてますしおすすめはある程度答えることはできますが。
周りの子も恋愛ソング聴くし、私もその方が分かるかもしれないって思うけどそれでも嫌だったりする? 私にはどうしても嫌か。
はい。って、周りの子が聞くからって僕に合うと思います?
そこまで流行に後れてるのかな、ホシヒロって。分かった、私とホシヒロ、二人で聴くわけだし。恋愛ソングはやめて格好いいやつか切ないやつか盛り上がるやつ。さあ、どうぞ。
雑だなあ。
あ、待って。直で流すのは止めた方がいいから。ふふ、私が左耳!
これも浮気じゃないんですか。これくらいならいいかもですが、人によっては浮気だってなりません? 僕の考えすぎですか?
そうなるね。相手が許してくれてるからいいの! さて楽しい曲を聴きたいね。もちろんホシヒロが作った曲でもいいけど? でもホシヒロが言ったわけだし恋愛ソングは聴かないけど。
僕の曲はないです。趣味で曲を作ることもないし。諦めてドラマの曲でも聴きましょう。これ、有名な人で。
音、ちょっと小さいかも。
これくらい? まだまだ? 大きくないですか?
繊細な耳だね、ホシヒロは。耳舐められたらすごいんじゃない? ちなみに私はすごいんだよ、耳。ぶわああああってなる。
最悪だ。そういう話一番聞きたくない間柄なのに。で、どうですか?
ノリが良いね。カラオケに行きたくなる。最近ずっと行ってないけどね、私にも叫びたいときがあるし。そういえば、二人でカラオケ行ったとき次の日は声がらがらってなるまで毎回歌ってたね。あれ、楽しかった。
楽しいことが僅かにでもあって良かったです。これが振られた側の宿命か。
その節はまだ罪悪感があって。それもあって今日は話したかった的な? あとホシヒロでも楽しい思い出がなかったなんて言われたくない。ちゃんと私の楽しかったボックスに永久保存だから。これわりと本当だから。
振ったのに?
でも本当だよ。私、ホシヒロを振ってるけど。あれは申し訳なかった。うん。もちろん今の人大好きだし別れたりするわけじゃないというか、乗り換えるつもりはないけどね。
傷ついた。
ごめん。あ、店員来た。わあ、パンケーキ。写真撮る。美味しそう。
本当だ。イチゴとブルーベリー、パイナップル、ナタデココ、それと葡萄か。結構豪華というか多いというか。なんとか食べ切るけど。
三段だからね。さあ頑張って。あ、ちょっともらっていい?
僕が口を付けていないところなら。こういうのも浮気じゃないとか変な人だね。逆に何が浮気なんだ。本当に最後だけか。
最後か最後に直結するようなものだと浮気らしい。でもちゃんと私のこと大事にしてくれる人だからね、ちゃんと愛し合ってるし。だから心配とか約束とかないけどちゃんと愛は感じてるよ。
聞きたくない話だね。というかツキネさんを大事にしないのはあり得ない。
それは私も思う。私が好きだった人が言った言葉だし。ちゃんと愛してくれる人を選べって。ちゃんと守ってますけど、ホシヒロ。褒めてほしい。
褒めないよ。約束守ってもらえてるのは嬉しいけど、僕はちゃんと振られて捨てられてるけどね。どうして僕は来てしまったんだ、……。
それにしても、チョコバナナじゃなくて良かったね。おまかせだったら乗ってきた可能性はあるしどうしたの? 私が食べても良かったけど。
それが僕の進むべき道って思って鼻を摘まんで、目を瞑って頑張って食べる。無理して食べることになるけど。
言いたいことは分かる。私が手伝うのは嫌ってことでしょ?
違いますが?
けど無理して食べるのはもったいないしそのときは私が食べた方が良かったでしょ。店の人だって美味しそうに食べてもらいたいだろうし。
美味しい。一口食べる? あーんて。食べないなら全部私ね。許せ、ホシヒロ。
元恋人なんですけど、すぐ間接キスとかさせないで。パートナーいるくせに、こいつパートナーいるくせに。
ほら、ホシヒロ。注文のときから必死すぎだよ。私を手に入れたくて、でもロマンチストらしく足掻いている。私、伝えたいこと全部気づいてたよ。けどごめんね。こういうことだから、話すの遅れたけど。神秘的でしょ?
はあ? ああ、だから僕を呼んだのか。やっぱりツキネさんは不幸そのものだ。
お互い様かもね。けど楽しかったし先輩後輩でいたい。それに私がこうして歩めているのはホシヒロのおかげだよ。愛してくれたから私はまた人を愛せた。また仲良くしたい。
不幸そのものだよ、一目見てツキネさんを好きになった。彼氏がクズだって言ってたのになかなか別れなかった。あのときだって僕の好意に気づいてたはずで。で、僕に告白したのも結局箸休めみたいなもので。なんで汚いやつらに、そういう群れに戻っていった? 僕たちじゃ子供を作れないから? 僕たちではおままごとにしかならない?
違う、……違う。そうじゃない。違うよ、聞いてよ、ホシヒロ。
こうやって! 僕の好意を利用して気分良くなるために関係を繋ぎ止めようとして。僕は一途だった、ツキネさんがいなかったら、僕は他の人を愛せたんだ。
他の人って? 私以外を愛せたってこと? 違うでしょ、ホシヒロ。言いたいのは私さえ好きにならなかったら、普通の人生を送れたって男の人を愛せたって、『僕』って言って普通から距離を取ったって思わなくて良かったと。
ツキネさんもその彼氏もあんまりだよ。
結婚してるから旦那ね。
いやそうじゃなくて、そうじゃないんだ。嘘じゃないはずなんだ。僕らが恋人だったこと、好きって言い合ったこと。けど結局僕が女の子ってそれで全部、全部が全部、なんで余裕なんだ? ボクらは確かに恋人だった、でもパートナーは浮気じゃないってそう言ってツキネさんを送り出した。僕のことは嫌いでもどうでもいい存在でもいい、けどさ、あの時間までも好きって言い合った時間も否定しないで、否定しないで、ツキネさん。
けど私、ホシヒロを一人にしたくないわ。都合のいい二人でいたい、先輩後輩に戻ろう、そしてたまには一緒に愚痴り合おうよ、ね?
子供が生まれるのに?
うん。嘘だと思う? だって嫌いじゃないし、むしろ好き寄り。ホシヒロに出会って本当に良かった。運命の人、私に本当の愛を教えてくれた人。浮気じゃないから、これから何度だって会えるよ。
その言葉、しんどいけど。これから僕は誰に恋したらいい? どっち付かずになってしまって宙に浮いてる。僕だけが取り残された、ツキネさん、どこを目指したらいいかな。ねえ、僕には何が足りなかった? そんなにそういう行為って快楽があるの? 女の子じゃ絶対駄目だって、男がいいってなるくらい。
違う。ホシヒロ、私は幸せだから結婚した。男の人は何度か好きになったけど、女の子はホシヒロだけ。すべてがホシヒロに向いてる私じゃなきゃ駄目? 旦那がいて、子供がいて、その片手間な私じゃ足りない? これでも私、人生にホシヒロがほしいのだけど。
クズ女、同じ性別とは思えないほどクズ。こんな人好きになるべきではなかった、こんなずるい人好きになるべきじゃなかった。あーあ、僕は都合が良いな、それにチョロすぎるな。けど僕の気が済んだら離れるし好きな人ができたら離れる。本当に不幸そのもの、自分勝手、クソ女。
元気なホシヒロが好き。今日は会えて良かった、また会おう。パンケーキは私の奢りね。今度、私の旦那に会いに来てよ。
僕が旦那と浮気するかもよ?
そしたら絶交かな、ホシヒロとは。って言ったらどうする?
僕の扱いが完璧だ、魔性のクソ女。また会うときはもう少しおしゃれしてくる。それに、僕のツキネさんを誑かしたやつ、旦那だっけ? この目で見てやる。
私のため?
はあ。少しは黙ってくれ。僕の精神的なライフポイントも無限じゃない。今日は疲れた。一つだけ言っておく。
何?
ツキネさんは僕にとっての不幸そのものだけどさ。好きだし、今だって大好きだし、その、幸せをそれなりに? それなりに願ってる。
ふふ、私幸せかな。叶ってるよ、ずっと私のために願ってくれていたんでしょ。叶ってる、叶ってるよ。けどここにホシヒロが加わったら私の中では最強だけど?
そりゃどうも。じゃあ。
またね、また会おうってこと。
うん。結局僕は負けちゃって、操られちゃって。本当、自分でも呆れる。ツキネさん、たまに幸せな気分にしてくるとは、ずるいクソ女だ。
『お久しぶりです、私の不幸。』(完)
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