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第6話
ずっと、彼の優しさが気持ち悪いと感じていた。
愛されたい。
優しくされたい。
ほしがっていたはずなのに、いざ貰うと違和感と不信感のせいでうまく受け取れなかった。
いつの間にか、僕は普通から外れた人間になっていたのだ。
「あなたが悪い人だったら良かったのにって、何度も思っていた。でも、知れば知るほど優しい人だった······」
明け方、僕は彼は同じベッドで手を繋ぐ。
お互い裸で、さっきまでなにをしていたかはお察しの通り。
僕の言葉に彼はクスクスと笑う。
「俺は悪い人だよ。君を手に入れるために色々なことをした。君が知らないだけで、もっとたくさんの人を殺しているかもしれない」
「世間一般の価値観ならね。でも、僕の中でならあなたは優しい人になる」
彼は僕なんかのために過ちを犯した。
申し訳ない······それよりも嬉しさが勝ってしまった。
だって、そんな愛しか僕は信じられない。
イビツで常識から外れていようと、僕にとってこの愛こそが救いとなった。
「これからずっと、あなたの愛を僕に見せてください。そして、地獄に堕ちるその時ですら、僕を抱いて離さないで」
それならきっと、寂しくないから······
「愛してるよ、七央」
それはさっき教えた僕の本名で、呼ばれたと同時にキスをされた。
強引だけどやっぱり優しいそのキスに僕は初めて、嫌い以外の感情を抱いた。
「ありがとう、宏樹さん······」
僕の世界の空気は毒があり、ずっと息苦しかった。
どんなに呼吸を抑えても、完全に吸わないなんてできない。
だからきっと僕にも毒が回り切ってしまったんだろう。
甘い甘い、この危険な猛毒が······
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