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第2話
現に僕はあの子の死をまったく悲しんでいなかった。
死を知った時も、お葬式の時も、僕はただ淡々と泣き続ける両親を眺めていただけ。
むしろ、ほっとした。
やっと、いなくなったと······
「······あれ?」
ずっと髪や体を打ちつけていた雨がピタリとなくなった。
雨、もう止んだのかな······?
僕は立ち止まって顔を上げる。
雨は······まだ止んでいなかった。
ならなぜ、僕は雨が止んだと錯覚したのか。
それは僕に傘を差した奇特な人がいたから。
「あっ······」
「こんな雨の中、傘を差さないと風を引いてしまうよ。ナナ」
黒色の傘を持つのは、シワ1つないスーツをかっちりと着た1人の男性。
彼は僕の知り合い。
忘れたいのに、忘れられない知り合いだ。
「こんにちは、ヒロさん······」
「ああ、こんにちは。10日振りだね」
「そうですね······」
僕は彼のことを"ヒロさん"と呼ぶがこれは本名じゃない。
そして僕の"ナナ"もまた、本名ではない。
するとヒロさんは冷えきった僕を抱き寄せ、そっと耳にささやく。
「今日、うちにおいで」
「······」
僕は黙って頷き、ヒロさんの胸にもたれるように体を密着させる。
近くにはヒロさんの愛車が止まっているのが見えた。
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