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第5話
両親は女の子がほしかった。
でも生まれたのは男の子で、1番古い記憶にいる両親も僕に見向きもしなかった。
そしてその4年後に生まれたあの子は待望の女の子で、これでもかってくらい可愛がって甘やかした。
もちろん、僕はそれを黙って眺めるだけ。
1/100でもいい。
その愛情を僕に向けてほしい、そう思っていたのはいつまでだったんだろうか。
たしか両親······主に母から兄妹差別を受けることに慣れた頃には、僕はたくさんのことを諦めていた。
期待も愛情を望むのも、全部······
「彼女は学費の高い小中高一貫のお嬢様校に通っているのに、ナナは中学校すら満足に通わせてもらえなかった。当然、高校への進学も許されなかった」
私立のお嬢様校の学費は一般家庭でしかない我が家にはかなりの大金だった。
家のローンもあり、生活のためにと僕も働くように言われた。
中学生でもできる内職や新聞配達、加えて掃除洗濯炊事などの家事も僕の役目。
おかげで学校を休むことが多々あり、進学もお金がないからと許されなかった。
むしろ、家にもっとお金を入れろと言われる始末。
中学卒業後は1日のほとんどがバイトのシフトで埋まり、わずかな空白時間は誰もしない家事によって消える。
「外食や旅行はすべて置いて行かれ、バイト代はすべて搾取。暴力や暴言は日常。挙げ句の果てには、1年と半年ほど前から妹さんがナナに援助交際をさせた」
「······」
無視され、奪われ、傷つけられてきた過去。
彼の言葉はすべて事実だった。
でも家族のこともそうだし、自分の環境のことだって1度も言ったことがない。
「調べたの? 僕のこと······」
「そうだよ」
なんでもなさそう言うが、きっと大変だっただろう。
ましてや、僕のためにあの子を殺したなんて······
『愛ってなに? 愛してるって言うなら、見せてよ』
この言葉のせい?
卑屈になった僕が安易に発したからあの子は殺されたのなら、これは僕のせい──
「ナナは責任を感じなくていいよ。俺が勝手にやったことだし」
「でも······」
「そもそも、悲しかった? 妹さんが死んで。同情した? 泣き崩れるご両親を見て」
······悲しくなかったよ。
むしろ、やっと死んだのかって安心した。
両親だってそう。
可愛がっていた子がいなくなって、残っているのは見向きもしなかった僕。
正直、ざまぁって思った。
「俺の愛はこういう形。ナナのためならなんでもする。殺せと言ったら殺すし、世界を滅ぼせって言ったら躊躇いなく滅ぼす」
「······」
「それでもまだ俺の愛が信じられないなら、今度は両親を殺そう。妹さんのように事故や自殺に見せかけて殺してもいいし、社会的に殺してから生き地獄を味わせてもいい」
「生き地獄······?」
「そう。死んだ方がマシだって思うように残りの人生を歩ませる。ナナが受けた苦しみを何十倍にも返してね」
真剣な様子で物騒なことを言うヒロさん。
「今こそ、ご両親に復讐しない?」
しない。
復讐はなにも生まないから。
これは人としてやってはいけないこと。
だから、僕はそんなことしない······そう、言えたら良かった。
「············する」
僕はようやく実感した。
ヒロさんの愛は本物だと。
そしてこの愛によって、僕の理性はとうとう決壊してしまった。
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