第1話

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

第1話

 ──愛ってなに?  ──愛してるって、どういう意味?  ──愛してるって言うなら、それを見せてよ  ──見えないものほど、信じられないものはないから  誰もが黒い服を身に纏い、涙を流して悲しむ今日。  父も母も泣いていて、僕は2人の背を黙って見つめていた時だった。  突然、振り返った母は僕の頬を思い切り叩いた。  パァンッと乾いた音が室内に響き、僕は構えることができずにそのまま床に倒れる。  周囲は静まり返り、たくさんの視線が僕に突き刺さる。  その中でも母の怒りが込められた視線は体が痛いと錯覚するほど恐ろしいものだった。  母は泣きながら怒鳴っる。  なぜ、僕が生きているのかと。  「お前が死ねば良かった! お前なんかいらない! なんでお前じゃなくて······!!」  父は怒鳴る母を止めるだけで、僕のことは見ない。  でもきっと、父も同じことを思っているんだろう。  だって僕じゃなくて、死んだあの子を可愛がっていたから。  たとえあの子の死が僕と無関係でも、きっと理不尽だと感じている。  母と同じようなことを思っている。  僕はゆっくりと立ち上がり、2人に向けて深々と頭を下げた。  「生きてて、ごめんなさい······」  この中で唯一、あの子の死を悲しんでいなくて······  その言葉はぐっと飲み込み、僕は今も突き刺さる視線を無視して外へ出る。  外はまるでバケツがひっくり返ったような土砂降りの雨が降っていた。  神様も悲しいんでいるのかもしれない。  あの子の死を。  そんなことをぼんやりと考えながら僕は歩く。  目的地はない。  ただ、どこか遠くに行ってみたかった。  父と母から離れられる場所へ。  やっと死んでくれたあの子や、僕のことを知らない場所へ。  そして、こんな僕を受け入れてくれるどこかへ······  「なんで僕が生きている、か······」  知らないよ。  あの子は勝手に死んだんだから。  あれは事故で、僕のせいじゃない。  僕は······  「······悪い子、なのかな······」  自分がいい子だと思ったことはない。  殺意を覚えたことは何度もあるし、実行するための計画を何度立てたことか。  だけど、それはいけないこと。  人の道に外れる行為だと、理性が悪意に満ちたその殺意を押し留めた。  だから時々、怖かった。  この理性がなくなったら、僕は一体どうなるんだと。  この押し留めていた殺意が一気に溢れ出したら、僕はどんなことをしてしまうんだろう。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!