目の保養 side裕哉

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目の保養 side裕哉

 出勤途中に会った同僚と話をしながら歩いていると自課のドアが見えたので、サッと自分の身だしなみをチェックしつつ同僚に手を降り、執務室内に入る瞬間に存在をアピールしたくて挨拶をする。 「おはようございます。」  その後、こちらに背を向けてピシッと背筋を伸ばす横澤さん(彼女)に嫌がられないようにあくまでも上司の距離感を持って近づく。 「おはようございます。課長。」 「横澤さん、おはよう。いつも早いですね。」 「いえ。」  今日も挨拶が出来たと喜ぶ私、太川裕哉は彼女…横澤絵理子が部下になったその日に恋に落ち、はや3年の月日が過ぎようとしている。  平均より小さい身長で顔もかわいい。テレビで見るアイドルのように痩せすぎず健康的な体型だと思う。そしてなによりあの豊満なおっ……いや胸が堪らない。私のめっちゃ好みなのだ。  しかし彼女は、『ポチャ』とか『ぷよっ』といった人が、苦手なのだろう今日もピリリと塩対応だ。  横澤さんが同期の松山さんと話している姿をメールをチェックしながら眺めるくらいしかできない。  私は見た目が丸いせいで、平安貴族っぽいと言われてみんなから陰で麻呂と呼ばれているらしい。  別にそれが嫌だとは思っていない。ずっとこの体型だから学生時代も似たようなあだ名がついていた。でも横澤さんが麻呂という名を使っているのを見たことも聞いたこともない。  それは麻呂とさえ呼びたくないほど仕事以外で視界に入れなくないということなのだろうか。少し落ち込む。  いままでの人生=彼女いない歴という私は女性の考えはわからない。  だいたいいつもやさしそうって言われるから女子に疎まれはしないが、いわゆる『いい人』ポジションで終わりそれ以上の存在にはならないのだ。
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