朝 side裕哉

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朝 side裕哉

 横澤さんを食事に誘おうと決心して迎えた朝、いつもよりめちゃくちゃ早く目が覚めた。緊張しているのか早起きし過ぎてまだ眠かったのか電車を間違えて快速に乗ってしまい、遠回りしたせいで到着がいつもより少しだけ遅くなってしまった。  横澤さんに話しかける時間があるだろうかと思いながら会社に駆け込むといつもより5分ほどの遅れで済んだ。 「おはようございます」  周りに挨拶しながら事務所に入ると横澤さんが自席でコーヒーを飲んでいる。 「おはようございます。課長」 「横澤さん、おはよう」  挨拶した勢いで話しかけなきゃ!そう思うがなかなか言葉が続かない。 「あ、あの……」  珍しく横澤さんが何か言いたそうだ。これをきっかけに誘ってみようかと続きを促す。   「横澤さん?」  いつも以上に感情が見えない横澤さんが何を伝えてくるのか身構える。  いっそのこと『話したいことがあるなら、仕事が終わってから飯でも……』と続けてみようかと思ったタイミングで後ろから足音が聞こえた。 「太川課長、ちょっといいですか」  声に振り返ると山下部長だ。この人はだいたい面倒事を持ってくることが多い。それでも中間管理職の私は彼に嫌とは言い難い。   「は、はい。」  仕方なしに部長を伴い自席に移動する。  持って来られた案件に対応する算段をしているとすっかり仕事モードになっていて、しばらく彼女を食事に誘うというミッションが頭から抜けていた。  やっと部長の案件が目処がたったため横澤さんの席に目をやると仕事に集中しているようでプライベートの話をする雰囲気ではなかった。  彼女は何を言いかけたのだろう?最近すっかり痩せてしまった彼女の悩みを打ち明けるつもりだったのだろうか。  それが課長が嫌でストレスで痩せました……という告白でない事を祈りたい。  残念ながら彼女が私を嫌いでもあの明るく食べ歩きの話をしていた横澤さんに戻る手伝いがしたいんだ。  最悪、課長のせいと言われたら私が遠くへ異動希望を出してもいいと思っている。
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