名前を呼んでよ

2/2
前へ
/2ページ
次へ
図書室に着いた。私は本が好きだが、海司と椿はそこまで好きではない。 「小説と漫画、どっちが好き?」 と聞くと必ず、 「漫画に決まってんじゃん」 「漫画しか勝たん」 と言う。 なのになぜ図書委員に入ったのだろうか。 図書当番のときは昼休みが潰れる。遊び、部活最優先のふたりは最悪だろうに。 でも、放課後の委員会は楽で、話しながらできる。 「いやぁ、野球の大会でさ、予選敗退しちゃって」 そういえば椿は昔から野球をやっていて、上手かったな。 「俺も。テニスの試合で一戦目は勝ったんだけどなぁ」 海司は…テニス部か。 「ふふふ。私たちはね、バスケ地区大会3位でした!」 「と、言っても、女バスは先輩の人数多いから、お前出してもらってないだろ」 海司は昔から弱みを見つけるのがうまいんだよなぁ。 「そ、そうだけど…」 私はそこまでバスケが上手くない。 けど今はそれより、また大司に『お前』と呼ばれたのが悲しい。 「あ!ちなみに海司はどうなん?青春してる?」 椿っ。それは私は聞きたくない。だって、だって…私にとって猛毒だから。 「は?してない」 そうだ。海司は女子苦手なんだっけ。 私は普通に話せるからまだいいほう。他の女子はめっちゃ避ける。 「え〜、好きな人いないの?」 …あやよくば私だったらいいのに。 という願望が頭を横切る。 「…いる」 うそ…いるんだ。 脳内も、視界も真っ白になった。 「…!イニシャルは?それとも、クラスは?」 だめ、もうやめて、私じゃないんだから。 「…イニシャルはM.R。クラスは一年三組」 私の名前は松井莉里。イニシャルは…M.R! クラスは一年三組! 「ほほう…✨」 ニヤリと椿は私の方を見た。 「好きな人は松井莉里」 「え…?」 私のことが好き…?海司が? うそ、うそ、うそ!! 両思い…! 頭の中が薔薇色に染まった。それにつられるように顔も薔薇色になる。 「、莉里のことが好きだ。今まで恥ずかしくて名前を呼べなかったけど…これからは名前で呼ぶ」 初めて名前で呼ばれた。 『莉里』という名前で。 「私も、ずっと好きでした。名前で呼んでくれてありがとう」 ここから晴れて私たちは付き合うことになるのだ。椿…ありがとう。強く言っちゃってごめんね。 「おー!おめでと!!」 椿はやっぱり幼馴染なんだな、と、私は思った。私のことをすべてお見通しなんだもん。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加