うちのカレー

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 久しぶりにカレーを作ろうと思った。 【うちのカレー】は、豚こま肉をカリカリになるまで炒めて、そこに刻んだ玉ねぎを二個分入れ、豚肉から出た(あぶら)と肉汁で玉ねぎを揚げ焼きにする。  玉ねぎの焼き色が(あめ)色になったら、キッチンぺーパーで余分な脂を吸うのだが、なんとも加減が難しい。脂を吸いすぎたらコクがなく、逆だと脂っこくなって、口の中にカレー味の油がへばりつく。  丁寧に丁寧にキッチンペーパーで油をとって1000ccの水を入れたら、チューブのニンニクと生姜、あとケチャップに味の素と、レンジでチンして下ごしらえした野菜を入れ煮込む。野菜が足りない時は、水気を切った白滝(しらたき)を足す。  仕上げに火をとめて、中辛のカレールーを溶かせば完成だ。  なんで私が、このカレーを作ろうと思ったのか。  このカレーが、私の恋愛遍歴10年における、歴代彼氏たちの本性を暴いてきたからだ。  初めての彼氏は「カレーに豚こまや白滝を使うなよ、貧乏クサイ」と言ってきた。  二代目の彼氏は「チューブのニンニクと生姜を使うな! あと、野菜をレンジでチンするな! あきらかな手抜きだ!!!」と発狂した。  三代目の彼氏は「あ、あじの素、使ったのか。うげえぇ!!!」と、その場で吐いた。失礼なヤツだった。  今回の彼氏で四代目――男を見る目がない私の為に、友人が紹介してくれた男性だ。今のところうまくいっており、ゆくゆくは結婚も考えているのだが、歴代彼氏たちのことを考えると、この男にも【うちのカレー】を食べさせて、内に秘めた本性を暴きたいと思うようになったのだ。  よく「人を試すのはよくないこと」だと聞くが、その人間が、腹の底ではなにを考えているのか分からない以上、見極める手段があるのなら使わない手はないじゃないか。  歴代彼氏たちのように、歴代彼氏たちのように……。 (※大切なところなので、心の中で二回唱えました)  DV・モラハラ・内弁慶……そんな人間に振り回される人生なんて、私はまっぴらごめんだっ! 「これが、君ん()のカレー」 「うん。久しぶりに作ったんだけど……どうかな?」  私は四代目の彼氏に【うちのカレー】を出すと、彼は「おいしい」と食べてくれた。 「豚肉がカリカリしていて、ベーコンに近いちょうどいい食感なんだけど、玉ねぎがトロ甘で、ニンニクと生姜のスパイシーさとケチャップの酸味のおかげで後味もしつこくなくて、味が全体的にひきしまっているよな。良い感じにカレーらしいカレーを食べたわ。野菜も煮崩れしてないから、ジャガイモやニンジンの味も楽しめるし、冷蔵庫に三日ぐらい置けば、白滝にカレーの味がしみこむんだろうけど、三日なんて待てないよ。このまま全部平らげそうっ!」  まさかの大・絶・賛!!!  私は、よかったと安堵するも、次に飛び出した彼の発言に、その場で(こお)りつく。 「それに、オレん()は、味噌汁にベーコン入れるから、実家の味を思い出したよ」と。 「え? 味噌汁にベーコン、ありえないんだけど……」  類は友を呼ぶというが、関係を発展させて結婚するのは難しい。  彼とは別居婚(べっきょこん)を視野に入れて、食生活を別々にした方がお互い(特に私が)、心穏やかに平和に生活できるんじゃないかと、勝手に考えるのであった。 【了】 7bc776d7-7e73-410f-8fb1-6394c6a994ce 【使用素材】カレー カレー by R5555 https://assets.clip-studio.com/ja-jp/detail?id=1788986 #clipstudio
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