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手紙
手紙をもらった。
果たして何年ぶりだろうか。
手渡された瞬間、僕の手は小さく震えた。
怖かったのだ。
人間嫌いを自称する僕は、さほど親交を持たぬ人間が紡いだ、言の葉達を受け取る事に畏怖と焦燥、不安を感じたのだ。
こうしている今でも封を切れずに逃げている僕をどうか笑ってくれ。僕と言う人間は、誠に恥じいるものである。
「封を切ればいいだけじゃないか」と誰か一喝してくれ。僕はあまりに臆病で、情けない。
誰かに指示をされなければ、まともになんて動けない。失敗が怖いのだ。情けない情けない。
全く手紙の一通だけでこれだけの騒ぎだ。笑っちまうね。喜劇役者だね。いや、そうであったらどれだけ僕は報われるか。僕は何者でもないのだ。
書いていて随分と自分が惨めになってきた。しかしそれもまた仕方がない。人は正論を言われると、どうも良い反応をしないが、今の僕がまさにそうだ。情けないなぁ。
閑話休題。
手紙を目の前に置いた。
淡い黄色の便箋に洋風の街並みが描かれている。
優しく、暖かみを感じるデザインである。
それなのになぜ僕は簡単に封を切り読むことができないのだ。
言の葉は重い。それがたとえ数行だとしても、精神を壊すことだって、人を殺すことだってできる。言葉は凶器だ。だが美しくもある。
言葉たちが紡ぐ物語に何度救われたことか、何度素晴らしい景色を見せてくれたことか。だから僕は言葉に貶められて、救済される。
この手紙が校舎であるように祈る。
長々と駄文を連ねたが、結局は僕の精神薄弱さと情けなさが明るみになっただけの支離滅裂なものとなった。
誠に申し訳がない。
名も知らぬ人よ、ここまで目を通していただきありがとう。どうか、次の独り言にも付き合っていただければ幸いだ。
さて、やっと決心がついた。
僕は手紙を読むことにした。
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