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ハルはリュックを背負って、とりあえず歩いていた。
歩いているうちに何をしているのか判らなくなっていたが、とりあえず、ここまで歩いてきたことは判っている。
歩いているのは枯れた森の中にある一本道だ。
辺りは霧に包まれていて、いったい今が朝なのか昼なのか夕方なのか判らなかった。
何しろハルは時計を持っていなかった。
ただ、夜ではないのは判った。
辺りは薄ぼんやりとした明かりで満ちていたからだ。
一枚の葉もついていない木の上に、猫が一匹とまっていた。
ハルはそれを見上げた。
「よお、旦那」
猫は下品な笑みを浮かべながら、ハルに声をかける。
ハルは答えた。
「なんだい?」
「一体どこへ行く気だい?この先にはしけた町しかねえよ」
「それなら多分、ぼくはそこへ行ってるんだと思う」
「へえ、物好きな」
「この森を抜けたら、その町にたどり着くんだね?」
「森?どこが森だよ」
「ここは森じゃないか。木はどれも枯れてるけど」
「森なんてもんじゃねえよ。ここは林さ。森ってほど木が生えてねえだろうが」
「そうなの?森だと思ってた」
「ただのしょぼい林さ。ところで、あんたはどうして驚かないんだ?」
「何に驚くの?」
「この俺様にさ」
「君を見たら驚かなくてはいけないの?」
「そうとも。だって俺は笑ってるんだぜ」
「笑ってる猫なんて珍しくないよ。キャロル紀の猫なんてみんな笑ってるじゃないか」
ハルがそう言うと、猫は一瞬にして姿を消してしまった。
ハルは再び歩き始めた。
そして、おや?と思った。
さきほどの猫に、いつか会った事があるような気がしたからだ。
久しぶりに出くわしたのに、もしかしたら僕はそれに気付かなかったのだろうか。
ハルは立ち止まり、後ろを振り向いた。
しかし、猫はもう姿を現さなかった。
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