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今日も学校の門をくぐり、駅へ向かう。
その途中の100m程ある坂道を下って行くと右手には市営動物園の入口がある。入口付近は開園60年と謳ってるだけあって年季があり、古びた作りで窓口が2つあるが手前側の窓口はいつも「隣の受付をご利用下さい」という案内のボードが置かれているから、実質、券売窓口は一つだけだ。
じいじは私をこの動物園によく連れて行ってくれた。「生きものにやさしく、人にもやさしく」動物園に来たときは決まってこの口ぐせがじいじから出た。
じいじはやさしい人だった。なかなか面白い話もしてくれた。例えば、じいじが子供の頃話。ある教師が、少し素行が悪い生徒に対して、意地悪に答えを聞くことがあったらしい。
「ふふ、お前と話して久しぶりに思い出した。あんなものは俺の時代じゃ、なんか煙たがれてたよ、人気がない教師ほど偉そうにするもんだ」
じいじが友達の代わりに答えたこともあったらしい。
「じいじはなんて答えたの?」
「分かったら、なんか褒美はくれるのか?って言ってやった」
「カッコいい!」
ふと、一つ疑問が浮かんだ。
「でも、じいじ」
「なんだい?」
「じいじはなんで、友達の分まで答えたの?」
「俺の友達をいじめるからムカついたんだよ」
「先生が恐くなかったの?」
「恐くないねと思ったけど、その日実は家に帰って泣いたよ」
よく見ると、じいじは眉をハの字にしていた。
「悔しいのと、あとちょっと恐かった」
ワハハハと声を出して笑ったじいじは私の頭をぽんぽんとやさしく撫でて、そして幻のように消えていった。
「終点ですよ」
「あ、はい」
そう言うと、私はあわてて電車から降りた。
電車は回送車となり、私はホームでそれを見送りながら、また思い出す。
私は自分で自分の頭を触って確かめる。感触はやっぱり、じいじの手より小さな私の手だった。
「……久しぶりに、貴方に会えた……気がしたよ。じいじ……」
妄想を膨らませる。それはあの人が、確かに私の隣で笑顔を見せたあの日、昔のこと。
ワハハハとその素敵な笑顔を、私に見せて笑っていた貴方のぬくもりに、触れられた気がした。
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