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「なにか、ミスったか? しかし挨拶文には問題なかったはずだ。市長の了承も得ている」
事情の分からないまま、私は彼に愛想笑いを浮かべながらとりあえず会釈して見せた。すると男は。
「ふっ!」
こちらを見ながら不敵な笑みを浮かべた。予想外の反応に、戸惑いと正体不明の苛立たしさを覚えたのは間違いない。かといってここでそれ以上掘り下げても無意味だ。ここに私はいない。私は市長の代理で来ているのだから。
『続きまして、衆議院議員 土井垣清治様』
司会が読み上げると、さっきまで笑っていた男が立ち上がった。分かるのは、まず間違いなくこの男が土井垣代議士ではないということだ。代議士は御年76歳。こんな30代そこそこの若者とは全く異なる。ということは、彼もメッセンジャーであるに違いない。
「卒業生の皆さん、おめでとうございます。土井垣議員の秘書を務めております、依田と申します」
そうか、先ほどの笑み。あれは私を同類と認知してのものだったのだ。互いにエールを送り合ったつもりなんだろうか。まあ気持ちは分からなくもない。現に今私も彼に向かって口角を上げている。悪いがここでは私の方が先輩だし、経験値も数段上だ。
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