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第1話
この街に住む男子高校生、十条月日。
高校二年生の彼は、あまりにも特出した美貌によって学校中、いや、彼の姿を見た人々から告白されまくるという毎日を送っていた。
季節は、五月の中旬。
高校では、新入生たちも落ち着くころである。
本日は人気のない渡り廊下という、ベタなシチュエーションでの告白イベントを乗り切った月日だったが、あり得ない凡ミスをしてしまった。
なんと、保育園時代から隠し続けてきた乙女な本性を、通りすがりの女子生徒に見られてしまったのだ。
その衝撃で、仲良しの相棒、クマのぬいぐるみのティムまで行方不明になる始末。
いったんティムの捜索をあきらめると、月日は大慌てで家路についていた。
(――まずいまずいまずいまずいっ!)
バス停で長い脚を組み、知らず知らずに浅くなってしまっている呼吸を整えた。
(前代未聞のピンチだわ!)
月日は大きく息を吸うと、先ほどの出来事を頭の中で反芻した。
素性を目撃した彼女は、身長がとても高くて、すらりとしていた。そして、長い黒髪に凛としたよく通る声。
顔立ちまでは覚えていないが、『山田なんとかさん』の様相をうすぼんやりと思い出してきた。
(そうだ。彼女のネクタイの色は青だったから……下級生ってことよね)
月日の学校は、学年ごとにネクタイの色がちがっている。月日と一緒の緑色のネクタイではなかったので、恐らく『山田なんとかさん』は一年生だろう。
(下級生に目撃されるなんて……!)
誰に見られてもまずいが、とんでもない失態だ。下級生となると、月日の卒業後も噂話をされ続けて学校中に広められてしまう可能性がある。
顔を青くしながら、月日は髪の毛を掻きむしって両手で顔を覆う。
(穴があったら入りたいっ!)
恥ずかしさのあまり内またになりそうになったところで、声が聞こえてきた。
「あの、大丈夫ですか? 具合悪そうですが……」
とたんに月日はぎゅっと脚に力を入れ直してから、声のしたほうを見る。
すると、他校の女子生徒たちが心配そうに覗き込んできた。
「えっ、イケメン――!?」
月日と目があった瞬間。美男子の物憂げな表情を直視してしまい、女子生徒は顔を真っ赤にして言葉を失った。
口をパクパクさせている彼女に向かって、月日は表情筋に力を入れて王子様モードになった。
「大丈夫、ありがとう」
言いながら月日がにこりとほほ笑むと、彼女たちは耳まで瞬時に赤くして慌てる。
そんな彼女たちにお礼を伝え、月日は到着していたバスに慌てて乗った。
四駅でバスを降り、家に着くころになってもいまだ月日の心の中は晴れない。
それどころか、どんどん暗鬱な気分が広がっていく。
「ただいま……」
家に到着すると、月日はお通夜のようなテンションで靴を脱いで自室に入る。
ドアをばたんと閉めると、ベッドに盛大にダイブした。
「いや――――ん、どうしましょうっ! どうしたらいいの――――!?」
枕に顔をうずめながら喚くと、隣の部屋からうるさい! と姉の声が聞こえてくる。
「ごめんなさい~~~! でももう無理だわ、無理だわ――っ!」
枕から顔を上げると、月日はベッド脇のぬいぐるみのお友達たちを抱きしめる。そして、うわんうわん泣き始めてしまった。
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