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「……あの、何がなんだかわからないけど。とにかく大牙くんが人を食べれば、大牙くんは助かるんですね?」
「あ、あぁ。その通りだが」
「それなら、私が言うことは決まってる」
蘭子さまは、微笑んだ。そこにいつもの冷たさはなくて、聖母のようなあたたかさすら感じる。
「大牙くん、私を食べて」
「……え?」
「私、言ったでしょ。大牙くんのために死んであげるって」
そうだ、最初は俺が言ったんだ。たいした覚悟もないくせに、俺のために死んでくださいなんて。
「俺には、蘭子さまを殺すなんて――」
「いいから。私に服従するんでしょ? 私を食べなさい」
「――そんな……」
そんなこと、できない。そんな結末、絶対嫌だ。蘭子さまの命令だとしても俺は――きけない。結局俺は犬にもなりきれないまま、死ぬしかないんだ。
「いやちょっと、待て待て」
「なんだよじいちゃん……」
じいちゃんは焦ったように、俺と蘭子さまの話に水を差す。
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