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「何? 死ぬとか殺すとか? 怖……」
「何ってなんだよ! じいちゃんが食えって言ったんだろ!?」
殺すのが怖いなんて、今さら何を言い出すんだ。人狼の分際で。16歳以上の人狼はみんなやってるくせに。
「食えとは言ったが……え、全身いくつもり? ちょっとでいいんじゃ、ちょっとで」
「え?」
じいちゃんは指先でつまむような動作をする。ちょっとでいいってどういうことだよ。
「なんならささくれとかでいいんだぞ? なぁお嬢さん、どうじゃ?」
「あ、あります、ちょうど。ささくれ」
「ほれ、それだけでも食っとけ。そうすれば死なんから」
「は、はぁぁぁぁああ!?」
そんなことある? 人を食らう怪物、人狼。それが人のささくれ食って生き永らえてただけのヘンテコ生物だったなんて。
「勝手に勘違いしたのは貴様じゃ。だからってすぐに殺すだの、死ぬだの、若者怖ぁ……」
そりゃするだろ、勘違い。人狼が人を食えって言ったら、そんなの丸ごといくと思うわ。
なんだかすごく疲れた。全身の力が抜けてしゃがみこんだ俺に、蘭子さまは左手を差し出した。たしかに、薬指に小さなささくれがある。
「はいこれ、どうぞ」
「それじゃ、いただきます……」
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