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「――俺のために死んでください!」
「……え? 嫌」
……撃沈。そりゃそうだ。それにしても、正面から見た美園蘭子はかなりの美人だ。まさに名前の通りって感じ。思わず見とれながら、俺はある人の言葉を思い出した。
◆
じいちゃんからの死刑宣告を受けたあと、すぐのこと。絶望していた俺を見かねてか、俺の叔父である通称チャラ兄がアドバイスをくれた。
「いいか大牙、人を食いたきゃ惚れさせるんだ」
チャラチャラという擬音が聞こえてきそうな佇まいで、ドヤ顔を向けてくる。
「は? どういうこと?」
「食うなら、恋人同士が一番いい。お前のことを好きな奴なら、心も体も許してくれる……かもしれない。自分から差し出してくれなくたって、恋人ってのは二人きりでいるのに一番都合がいい関係だ」
「まぁ確かに、そう……なのか?」
「な? ワンチャンあるだろ、ワンちゃんだけに」
それが言いたかっただけだろ。
とはいえ、チャラ兄の言うことは一理ある気がした。恋人同士なら、二人きりになるチャンスなんていくらでもある。それに、自分から身を差し出してくれるかも。
俺は告白や恋人なんて無縁な人生(犬生)だったくせに、そんなやり方に希望を見いだしてしまったのだ。
◆
美園蘭子は、嫌と言った。そりゃ死ぬのは嫌だ。当たり前。俺だってそうだから、こうして人を食おうとしてる。だから、次の作戦だ。
「じゃあ、俺と付き合ってください!」
「それなら、いーよ?」
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