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一瞬、なんて言われたのか理解できなかった。
「い、いいよ? いいよって言った!? 今!」
「いいよって、言ったよ」
「なんで!?」
「だって、私のこと好きなんでしょ?」
返事に詰まると、美園蘭子は立ち上がり、俺の目の前に来る。すらりとした体型の美園蘭子は、俺よりも少し背が高い。鼻先が触れそうなほど顔を近づけてくる。それから片手で顎を持ち上げられた。
「答えられなくても、いいよ。これからもっといっぱい、好きにさせてあげるから」
鼓動が早くなるのを感じる。なんだ、なんなんだ、この気持ち、この感情は。美園蘭子の不敵な笑みが、俺の心の誰も触ったことがないところに突き刺さる。
言葉が出てこずに口をぱくぱくさせると、美園蘭子は俺からぱっと離れた。
「……ごめん」
その一言は、いつものように、氷みたいだった。抑揚のない、感情が読み取れない声色。
俺が呆気にとられているうちに、美園蘭子は去ってしまった。
何がなんだかよくわからないが、とりあえず、成功――でいいのだろうか。とにかく、俺は美園蘭子と恋人同士になれた――のか? 本当によくわからない。それも、明日また学校で会えば確かめられるだろう。
16歳の誕生日まであと一週間。それまでに、どうにかして美園蘭子を食ってやる。
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