据え膳食わぬワン!

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◆  作戦決行の夜。公園に着いた瞬間、落胆した。どこを見回しても、人、人、人。ピカピカチカチカと目に余るイルミネーション。なんとクリスマスまでの限定イベント開催中らしい。この公園は誰もいないはずだったのに、ちくしょう。  待ち合わせ場所に佇む美園蘭子は、私服に身を包んでいた。ファッションのことはよくわからないが、黒を基調としたコーディネートを包む真っ赤なコートはすごくかっこいい。しわしわのパーカーで来たことを後悔した。そもそも美園蘭子に見合った服なんて持ってないが。  美園蘭子に促されて、手を繋いでイルミネーションを眺める。正直、俺はイルミネーションなんかに全然興味はないが、美園蘭子の瞳に反射した輝きだけはすごく綺麗だった。  一通り公園を周って、隅のベンチに座る。美園蘭子は冷えた指先で俺の手を探り、きゅっと握る。  俺は悩んでいた。美園蘭子に言うべきなのは、どちらなのかを。人狼として食われてくれと頼むか、俺は俺として本当の気持ちを伝えるべきか。  言うなら今だ。周囲に人はいない。息を大きく吸い込む。 「……私ね、友達いないでしょ?」 「へ? ああ、うん」  先を越された。せっかくのやる気を不意にされ、つい下手くそな相づちを打つ。 「大牙くんって正直だよね。そんなところも好き――って、こういうの。こういうのが原因で友達がいないの。自分が恥ずかしいの。私、少女漫画が好きで、それで、つい芝居がかった話し方しちゃうから。変でしょ?」 「……いや? 別に変じゃない」  美園蘭子が何を言おうが、俺が何を思おうが、別に何も変じゃない。変なのは俺の心臓だ。いちいちドキドキしやがって。でももう、その現象の答えは出てる。 「そう言うのは大牙くんだけだよ。だから私、人を避けて過ごしてたの。それで――ほら私、顔がね? いいじゃない? 正直」 「そうだな」  そりゃそうだが自分で言うんだ。そこに対する自己肯定感が高くてうらやましい。 「ふふっ……あっ、ごめんつい……うれしくて笑っちゃった。それで、顔がよくてツンとしてたらよく思われないでしょ? 普通はね。大牙くんは、なんで? とか言うかもしれないけど」  ご名答だ。 「なんで?」 「普通はそうなの、普通は。だからとにかくそんなわけで、私は自分が嫌だったし、みんなにも好かれてなかったんだけど。大牙くんだけは違ったから」  美園蘭子は、俺の手のひらをよりいっそう強く、両手で握る。俺の方へしっかりと向き直り、微笑んだ。 「だから、大牙くんのために死んでもいいよ」
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