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世界一の愛されドール
何処までも広がる青い空、澄み渡った美しいコバルトブルーの海。
向けられるカメラや撮影用反射板、そして30名以上のスタッフ達へ視線を流す。
「 アリスちゃん、可愛い!最高だね!!そのポーズいい!! 」
「 今の凄く可愛いよ!!いいねぇ!その角最高!! 」
カメラとは別に、数名の声を掛けるだけのスタッフ達からの大袈裟すぎる讃美を受けながら、
いくつかのポーズの中で足首迄浸かってる海水を蹴ってみたり、手で触れては上へと飛ばす。
太陽の光を反射した雫が綺麗だなぁと思って笑えば、カメラの斜め後ろになっていたスラッとした高身長でガタイもいい男は耳打ちをした。
「 アリスちゃん!一回休憩入れよう!寒いでしょう? 」
「 めちゃさ"む"い"ぃぃい"ぃぃ!!! 」
カメラマンの言葉に頷くと同時に急いで海から上がる。
なんせ、来年使う夏用の水着雑誌の為に気温がぐっと下がった12月上旬に撮影されてるのだから、モデル殺しにもいいところだ。
気合いが緩んだ瞬間に身体はガタブルと震え、急いでマネージャーの方へと駆け寄れば、彼は大きな毛布を広げて来た為に、その布ごと腕の中へと入る。
「 かなかな〜。あ"た"た"め"て…… 」
「 まずはサウナに行きましょう。用意してますので 」
「 う"ん" 」
水着姿の身体に布を巻いてくれた彼は、私が歩くのに合わせて背中へと男性もののダウンコートを掛けてから、移動式のサウナへと入る。
「 うぅ、あったかい…… 」
「 愛紗、鼻水出てる。ちーして 」
「 んー… 」
芯まで冷えた身体を温めてくれるサウナに癒やされていれば、ポケットからテッシュを取り鼻に押し当ててきた彼に合わせて鼻をかむ。
テッシュを丸めた彼に何気無く礼を伝えれば、準備していたらしい桶を足元へと持ってきて、片膝をついては冷たくなった足をそっといれた。
「 っ……いたい〜ジンジンする 」
「 30分も海に入ってたらそうなるさ。直ぐに温かくなるから我慢して下さい 」
じんわりと痛む足に眉を寄せ、血行を良くする為に足首を撫でてマッサージする彼だけど、痛みに我慢出来ずに足を動かしてしまった。
「 ………… 」
「 あ、ごめんね…!? 」
顔に掛かった湯に、一瞬硬直した彼はふっと息を吐いては、濡れた頬に触れ緩く笑った。
「 足グセの悪い子だなぁ。少しじっと出来ないのか? 」
敬語が消えて、素になった彼が笑えば
その綺麗で整った顔立ちを更に引き出せる様で、胸は一気に高鳴って視線を外す。
「 ……私のマネージャー、顔良過ぎる 」
「 見な慣れてるだろうに…。ほら、良いからじっとしててな、風邪を引く 」
マネージャーの楠間 叶人
5年前、私が二十歳の時にマネージャーとなり、其れからずっと一緒に居てくれる。
最初は学生向けのファッションモデルとして人気になった私を気に入って、
マネージャーになった前回の人同様に下心ある男性かと思っていたけど、そんな事は一切無かった。
単純に、私をもっと売りたい…と言う
仕事熱心な方だったから一緒に居るのだけど、
次第に私の方から惹かれて、付き合って欲しいと言ったら、OKしてくれたんだよね。
「 ねぇ、付き合って一年記念になるから…今日は何処かに食べに行かない? 」
「 予約してるんですか? 」
脚のマッサージを続けてくれる彼に問い掛けるも、質問に質問を返してきた事にちょっと驚いて、苦笑いを向ける。
「 あー……いや、先にかなかなに聞いてから考えようかなって 」
「 …行き当たりばったりだと貴女が困るでしょう。只でさえスキャンダルを狙う輩が多いのに… 」
「 酷いよね、コンビニ行くだけでトレンド入りだよ。いいじゃんねー、からあげ買っても 」
朝一にからあげ、愛紗が買ったからあげ、とかで炎上みたいになったのは、ここ最近の話。
またそんな事はなりたくないと思うのは、彼も同じだ。
「 からあげぐらいはいいと思いますが…。まぁ、俺が予約してるのでそっちに行きましょう 」
「 揚げ物? 」
「 もちろん 」
「 やった!楽しみ 」
立ち上がった彼に目線を上げれば、そっと両手で頬に触れた。
「 体温が戻って来ましたね 」
「 ん…かなかなの手って、大きくて優しい手をしてるよね…。安心できるから、大好き 」
包み込むようなその手に、何処か懐かしい気分でいれば、彼はそっと額へと顔を寄せて来た。
「 もう少し撮影を頑張りましょう。帰ったら沢山甘やかせて差し上げますので 」
「 ふふ……私の扱い、得意だよね? 」
「 さぁ、如何でしょう。スタッフの方々に戻れそうな事を伝えてきますので、60秒程数えてから来てくださいね 」
「 はぁーい( 60秒って…子供のお風呂じゃないんだから… )」
少し過保護な彼に、クスリと笑ってからきっちり60秒数えてからサウナから出て行く。
「 アリスちゃん、戻りました!撮影再開します! 」
「「 はーい! 」」
「 お待たせしました!宜しくお願いします( やっぱり寒い!! )」
笑顔だけど、やっぱり寒かった。
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