世界一の愛されドール

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  久々に激しく求められて、日付が変わり 終わった頃に身体が思うように動かなくて、叶人に御風呂を手伝って貰った。 「 ふふ、かなも洗ってあげる 」 「 そう?じゃ、頼もうかな 」 「 いいよ、任せて 」   自分にも使っていたシャンプーを手に取り、しっかり洗い流した彼の頭に付けて、何気無く洗顔ネットで泡立てた泡を乗せて洗っていく。 「 痒いところあったら言ってね 」 「 ん……全部 」 「 またまた〜。じゃ、全部洗ってあげる 」 「 ふふっ…… 」 泡がたった柔らかい絡まりを知らないような髪をマッサージするように洗っていく。 全体的を洗いながら、大きな背中やら広い肩幅などを視線を落とす。 色白なのに、変な亀裂のような痕が関節ごとにあって… それが少し痛々しくも見える。 「 洗って貰えるの…いいな…。気持ちがいい 」 「 そう?他人や動物を洗った事ないんだけどね…。あーでも…昔、大きなぬいぐるみは洗ってたかな… 」 「 ………… 」 ふっと思い出したぬいぐるみの存在について話せば、彼が身体が密かに跳ねたことに気づいて、寒いのだろうと思い、シャワーで洗い流していく。 「 私の家、昔は貧乏だったからぬいぐるみなんて買って貰えなくてね。ゴミの日に…大きな熊のぬいぐるみがあって。お母さんは汚いからダメって言ったんだけど、如何しても欲しくて持って帰って、沢山洗ったんだ 」 「 そうなのか…… 」 洗い流した彼の髪が、少しラメが入った様に光ってるのを見て、その熊のぬいぐるみもこういった毛並みだったなって思い出す。 「 出来たよ。で…数回洗って綺麗になったぬいぐるみを天日干しにして乾かして、その夜から一緒に寝るようになったんだ 」 ゆっくりと立ち上がり、彼の背後から移動して湯船に浸かれば、彼もまた向き合うように入ってくる。 「 私がよく涎まみれにして…その度にお風呂入ってたから、大きな物を洗うのは慣れてるのかな。まぁ、髪の方が断然洗いやすいんだけど 」 軽く笑った私に、叶人は僅かに視線を外しては笑みを零す。 「 子供ってのは…どんなに親にプレゼントで貰ったとしても、新しいぬいぐるみがあればそっちに気を取られて、(よご)れたぬいぐるみなんてきたなくて捨てたんだろうな… 」 「( かな……? )」 「 けれど…。もう一度、誰かに貰われて…その子が大事にしてくれたなら嬉しいんだろう。きっとそのぬいぐるみは、嬉しかったんだと思う 」 ゆっくり立ち上がった彼は、先に風呂から上がれば脱衣場の方へと向かった。 膝裏や腰にまで入る、亀裂はやっぱり気になって仕方無い。 「 かな……やっぱりその傷、一度お医者さんに見てもらった方がいいよ… 」 「 嗚呼…治らないから見せても意味がない。風邪を引く、ほら…服を着て 」 「 ……治らないって 」 何故…治らないの…。 その質問をする前にボクサーパンツとインナーだけ身に着けた彼は、大きなバスタオルで頭から包み込むように拭き始めた為に、身を委ねた。 言葉の続きを言えないまま、私はふわもこの熊の絵柄が書かれたパジャマを着れば、彼はカッターシャツを着る。  「 少し逆上せたかも 」 ソファに腰を掛けて、ゆっくり寛いでいれば ネクタイをつけようとした手は止まり、彼は私の横へと来て、頭へと触れた。 「 愛紗…俺は、君をずっと愛してる。君に会いに来て良かったよ 」 「 急になぁに?そんなお別れみたいな……かな? 」 少し切なげに話す彼に冗談かと思って顔を向ければ、視界が一瞬白くなるのに合わせて抱き締められた。 「 叶人……? 」 僅かに震える彼の身体に、只寒いだけじゃないんだと察すれば、そっと其の背中に腕を回して、肩口へと顔を埋める。 「 君が…俺を救ってくれた…。捨てられるだけの未来だった俺に…もう一度、大切に愛してくれた。ありがとう、愛紗 」 「 っ……( あぁ……叶人は…… )」 自然と溢れて流れる涙に記憶に過る熊のぬいぐるみは徐々に霧が晴れて、其の姿を現した。 7歳だった自分と同じぐらいで、厚みがあって大きくて…。 おままごとに付き合って貰っていたし、沢山お風呂も入って、一緒に写真も撮った。 「 でも…私、おばあちゃん家に置いてきて…。迎えに行くって…言ったのに…。お部屋が狭くなるからってママに許してもらえなくて…ごめん…… 」 「 だから、俺から会いに来た。綺麗になったね、愛紗。俺の大好きな女の子 」 ぬいぐるみに付けた名前が思い出せなくて、彼が離れて行きそうな感覚が辛くて、戸惑っていれば… ゆっくりと身を離した彼は、私の目元に触れる。 「 ごめん、時間のようだ……。大人になれば忘れてしまう…それでいいんだ。何も後悔することはない…。愛紗…君と過ごしたこの5年間は…とても幸せだったよ 」 「 やだ……かな、かなと…。お願い…… 」 「 泣かないで、愛紗。君は笑ってる顔が一番可愛くて素敵なんだから…… 」 「 っ!!! 」 お互いの額が重なるより先に、手元に転がった生首を見て、目を見開いた。 熊のぬいぐるみとなったその首元からは白い綿が漏れて、胴体の部分は床へと静かに落ちた。 「 叶人……叶!!いや、やだ……ぁあっ…!! 」 お別れが突然と訪れるとは思わなかった…。 涙を流し、強く熊のぬいぐるみの頭を抱き締めては、声を上げた。 "ママ、くましゃん…!" "だめよ、汚いんだから" "やだ…くましゃん…!きれいきれいしゅる!" 「 やだよ…… 」 "くましゃん、あらおうねー!" "捨てなさいよ"   "いやー!もぅ、ありしゅーの" 「 やだよ…… 」   "くましゃんきれいきれい!ごはん、たべよー!あーん" "そんな事したらまた汚れるわよ…" "やだ!またあらうもん" 「 やだよ……… 」 " ねんねぇしよ……。ずっといっしょだよ… " 「 アルベロ……大好きだよ…… 」
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