がんばれ!リョーコ

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 ゴールデンウイークの間の平日。憂鬱な気持ちを押し殺して家を出た私は、近所のバス停で学校に向かうバスを待っていた。 「リョーコ!」  ビクッと肩が上がる。この声は間違えようがない――ユウタくんだ。 「お、おはよう」  私はぎこちないと分かっていても、なんとか精一杯の笑顔を向けた。ユウタくんも目が合わせられずに、困ったようにうつむいている。 「あの、この間のラインなんだけど」  私は息が詰まりそうな気持ちを抑えて言いだした。 「忘れて……っていうか、気にしないで」 「ああ……うん……」  ユウタくんはチラッチラッと私を見ては悩まし気にバス停を見上げる。でもバスが来るまであと二、三分はかかる。 「……これ」  ユウタくんはそう言ってリュックから小さな包みを出した。 「お誕生日おめでとう。プレゼント何がいいか分からなくて」 「……ありがとう。開けていい?」 9c7bfe38-8fec-4922-bf4d-820d7f2c06bc  彼がコクンとうなずいたのを確認して、私は包みを開けた。それはかわいらしい犬の刺しゅうが入ったタオルだった。 「その、リョーコのこと、クラスメートとか友だちとしては、好き……だから。これからも、その……よろしくな!」  私は胸がズキッと痛んだ。でも、その痛みを顔には出さなかった。 「うん。卒業まで、クラスメートとして仲良くしてね。これからも」  そう言うと、ちょうど来たバスに私は乗り込んだ。一番後ろの座席に座る。ユウタくんは前方の優先席のそばに立って窓を見ている。 (これで良いんだ)  私はハンカチをギュッとにぎった。また目尻の奥がジーンと熱くなって涙がこぼれそうになる。私はカバンを抱きしめながらうつむいて、寝ているようにみえるかっこうになった。  背中を揺らさないように。嗚咽をもらさないように。  私はしずかに涙を流して、ユウタくんにもらったタオルで涙を拭った。 (アサミも言ってたじゃないか。失恋してもいつか時間が忘れさせてくれるって)  そのいつかが来るまで、この胸の痛みが続いたとしても。  私はまた、前を向こう。私なら向けるはずだから。
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