14.サオ神は存在した。

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14.サオ神は存在した。

「私は妻ミリアと一緒にいられるなら、破滅しても構いません。彼女になら騙されても、利用されても良いと思えたから結婚したのですよ」 レナード様の言葉に私は息を呑んだ。 私も初恋の一郎様に対してそれくらいの気持ちで向き合いたい。 早く、鳳凰寺まどかに戻りたいと願った。 その後、具体的な仕事についての打ち合わせをしてレナード様と正式に契約を交わした。 今日はレオハード帝国のホテルに宿泊し、その後世界を回りながら良い商品を買い付けていくつもりだ。 「ルシア女王陛下、ずっと黙っていらっしゃいますけどいかが致しましたか?」 私はルシアの中にいるベロニカがずっと黙っているのが気になった。 サオ神の熱狂的信者である彼女はサオ神のことを一旦忘れるように言われて「無」になってしまったのだろうか。 「分かったしまったの、ミリア・アーデン様がサオ神の隠し子だということが。天界の王子様の寵愛を一身に受けるものがサオ神と無関係なわけがない。同じくサオ神の隠し子であるレナード・アーデン様とは兄と妹であることに気が付かないまま、惹かれあってしまったのね」 震える声で言った彼女の言葉に私はガックリと肩を落とした。 「兄と妹で子を成すなど、古代エジプトではあるまいし流石に気持ち悪いです。レナード様の奥様はレオハード帝国生まれで、サオ神とは無関係です。ついでに、サオ国の方は信じないかもしれませんが、レナード様も帝国生まれです」 「エジプトという国にも商品を買い付けに行くの?」 彼女の言葉に、私は彼女が大きな問題を抱えていることに気がついた。 「ルシア女王陛下、エジプトは鳳凰寺まどかの世界にある国です。この世界の国はレオハード帝国と独裁国家エスパル以外はみな二文字の国名です。エジプトと聞いたら、この世界の国ではないと気が付かないということは女王陛下はサオ国以外の国を存じ上げないのでしょうか?」 「サオ神の隠し子であるレナード様がいるレオハード帝国は存じ上げてるわ」 彼女はサオ神への信仰心が強いとは思っていたが、心底サオ神中心の小さな世界しか持っていないようだ。 もし、彼女がベロニカに戻ってしまったらと思うと不安になった。 サオ国において彼女がサオ神の分身という立場を大切にし、クサ公爵家を断罪する証言したことを賞賛する人がほとんどだろう。しかし、親を裏切ったと非難する人もいるかもしれない。 彼女には世界のどこでも生活できる力をつけてもらわないと、私は心配で仕方がない。 このような危なっかしい彼女を置いて、鳳凰寺まどかの世界に戻るわけにはいかない。 「ルシア女王陛下、明日から世界をまわります。物の価値を見抜く力を身につけてください。サオ国以外の国の豊かさや美しさを見つめてください」 私の言葉に素直に頷く彼女はルシアの姿になっても、純粋で澄んだ瞳をしていた。 ♢♢♢ 3年の月日が経ち、ルシア女王陛下は21歳、ベロニカは10歳となった。 私達の体は入れ替わったままで、私がこの異世界にきて14年の時がたとうとしていた。 「セレクトショップも軌道にのりましたね。ルシア女王陛下」 ベロニカの姿をした私が、ルシアの姿をした彼女に話し掛ける。 「まどか様、これまで、この世界にお引き留めしたことをお詫びさせてください。私はあなたを母のように思っておりました。今の私はサオ神の生まれ変わりであるルシア女王です。サオ神の力により、あなたを鳳凰寺まどかの体に戻すことができます」 彼女が私のことを「まどか」と呼んだことに驚いたのも束の間。 ルシア女王陛下は私の前に跪き、いつかベロニカがした病院の地図記号のようなものを天に描いた。 「サオ神の生まれ変わりルシア・サオの名に置いて、この者の魂を鳳凰寺まどか様の元へ届けなさい!」 彼女の凛とした声と共に当たりが真っ白になった。 サオ神は存在したのだ。 私がルシアの体にいた時戻りたいと思っても戻れなかったのは、信仰心がなかったからだ。
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