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 早朝、目を覚ましたオレ様は日課の温泉の見回りに出向く。明け方~早朝までは無人になるためスピカ竜しか入浴に来ないから、点検するならこの時間なのだ。  が、本日は何やら様子が違った。  その光景はまるで絵画だった。  リズと、彼女を抱きかかえるように、ヒトの姿のスピカ竜がいた。薄紅色をのせた白い肌を、褐色の手が湯とともに撫でる。蜜色の豊かな髪は湯の面に散らばり、さらりとした黒の髪は湯に濡れて艶やかに、そして泉の色の瞳と夜色の瞳が、互いの色を映しながら時折言葉を交わしているのであった。 (成程、この色か……)  ”心象模様(カレイド・スコープ)”とは、対象の感情が色だとか模様だとかになって見える心身魔法だ。  数十日前、相談事を持ってやってきたわりに温かな(あぶく)となり消えていった彼女の本音、そんな彼女の色は淡い桃色だった。  花開いたばかりの恋の色だ。  さらにその数日後には、同じく明朝、ドラゴンの本来の姿のスピカ竜と、その傍らにリズがいた。大粒の泪を流すスピカ竜にあの娘が寄り添っていたのを見た時オレ様は、この娘なら、と根拠のない確信を持った。その時姿の見えなかった根拠の正体がこれなのだ。  この娘は本当に渓谷に残ってくれるのだろう。いや、これはもうスピカ竜が彼女を手放すまい。にまりと、自然口角が上がる。 (いいじゃないか)  たまには点検日に空きがあってもいいだろう。まだ他の妖魔たちが起き出すには時があるから、このまま二人だけにしておこう。この絵に、第三者は映り込んではならないのだから。 ――  だが、硫黄泉の管理者であるオレ様としては看過できない一点がある。そのただ一点を伝えるべくオレ様は目を光らせた。そう、そのただ一点を伝えるためならオレ様はこの緩やかで優しい静寂さえも切り裂くクラッシャーとなる! ウェールズの嫌われ者の名は伊達じゃないのだ! 「そこの二人ィ!」  ざばばばという擬音が似合うほどの勢いでオレ様は跳ねて行く。 「もしも白濁をかき出すなら”流れ”にしろよー!」  振り返った二人の顔が真っ赤だったのは湯の所為ばかりではきっとない! [The story goes on.]
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