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「おい、〝ハム〟。いるのか」
子犬は、彼が自分にかけるその単語が、名前なのだと認識するのに時間はかからなかった。
男は子犬にハムを差し出し、自分はコンビニのおにぎりを食べる。その度に、男は子犬に話しかけた。
「世間ていうのは冷たいよな。俺やお前みたいなのには、見向きもしちゃくれないんだぜ。まあ、俺の方は自業自得だがな」
子犬はハムを平らげると、彼の足元に寄り添うようにして座った。
この場所にいれば、彼が必ずやってきて、食べ物と温かさを分けてくれる。
子犬にとって、彼は恩人であると同時に、親のような存在になりつつあった。しかし、虐待された過去を持つ子犬は、決して倉庫から出ようとはしなかった。男も無理に子犬を連れ出すことはせず、毎日決まった時間に食料を持って現れるだけだった。
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