名もなきもの

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 ハムは、犬と触れ合える小さなカフェにいた。高校生の女の子がハムの頭を撫でると、尻尾を振る。人に慣れるまでにはかなりの時間がかかったが、ようやく人前に出ることも出来るようになった。自分から客に近づくことはしないが、可愛がってくれる人間もいることをハムは知ったのだ。あの時の彼のように。 「かわいいですね。この子の名前は?」  女の子が聞くと、店員の女性は少し困った顔をした。 「それがねえ、今はわからないの。この子が人の言葉を話せたら、わかるんだろうけど」 「前に誰かに飼われてたんですよね」 「うん、今日、その人に会いに行ってくるのよ」 「それなら名前、聞けないんですか」 「……ちょっとね」  彼女はハムの方を見ると、そっと頭を撫でた。
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