名もなきもの

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「目を覚ますかは、五分といったところですね」 「そうですか」  彼女は都内の病院で、医師の説明を聞いていた。ガラスの向こうにチューブに繋がれた男の姿が見える。  男は刃物で刺された上に、頭部に殴られたような跡があった。一命を取り留めたものの、未だ意識が戻っていなかった。  身元証明になる物も身につけておらず、警察で調査しているが、今のところ彼の正体は謎のままだ。 「こういうことを言うのもなんですが、あまり関わり合いにならない方がいいんじゃないですか? 彼、どう見てもまともな人間には見えませんよ」  医師が声を潜めて言うと、女性はムッとして彼の顔を見据えた。 「名前もわからないのに、どうして彼のことがわかるんです」 「いや……別にあなたが良ければ構わないんですが」  バツが悪そうに医師が顔をかく。  女性も彼の素性が普通ではないだろうことは想像していた。でも、彼はあの子犬の命の恩人なのだ。
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