名もなきもの

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 三ヶ月の時が過ぎ、ハムは少しだけ大きくなった。元々小型の犬種のため、大人になっても二キロ程度しかない犬もいる。  男のお見舞いに来ていた彼女は、スマホに表示させたハムの写真を眠ったままの彼に見せた。 「あなたが助けた子犬、元気に育っていますよ」  名も知らぬ彼と繋がりを持ち続けることは、周囲からも反対されていた。でも、自分が見捨ててしまえば、彼を知る人もいなくなってしまう。彼女にとっては、彼も里親を探すために引受けた犬たちと同じだった。 「……ハム」 「えっ?」  女性は消え入るような声を聞いた気がして、男の顔を見た。しかし、彼は依然として眠ったままだった。彼女はしばらく様子をうかがっていたが、目を覚ます気配はない。  彼女はスマホを仕舞うと、ゆっくりと立ち上がった。 「また、来ます。早く目を覚まして、この子の名前を教えてくださいね」  彼女はちらと窓の外を見る。冬が終わりを告げ、暖かい日差しが差し込んでいた。もうすぐ、本格的な春がやってくる。今日は、あの子と散歩に出かけよう。彼女はそう思い立つと、そっと部屋を後にした。
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