<5・救世。>

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 ***  研究発表会は、大盛況に終わった。  この装置の研究、及び増産に手を貸したいという企業はいくつも名乗りを上げてくれたし、国も研究費用の増額を約束してくれた。私にとっては、何もかも順調に行っていると言っていい。  同時に。タト共和国のあの教会で発見されたパソコンから、一部データが救出できたという情報も上がってきた。どうやら、神父は同じ島に住む友人と装置について密にメールでやり取りをしていたらしい。その友人が家電量販店の店主だったため、相談に乗って貰っていたという。  この時点で、タト共和国が水没してから一か月ほどが過ぎていたが、未だ神父もその友人も遺体は見つかっていなかった。 「あの装置、確かに神父さんのものだったみたいですね」  パソコンの前で昼食のサンドイッチを齧りながら、ジェームズが言った。 「ほら、あそこって科学を神様のように信仰してる宗教つったでしょ?で、家電の類にも神様が宿ってるとみんな信じてたって。そういうわけだから、電化製品の寄付も多くて……メシアも、そんな寄付された品の中に紛れ込んでたってことみたいです」 「ということは、島の誰かが持ち込んだのか」 「そのはずなんですけど、誰が持ってきたのか神父さんにもわからなくて。当初は使い方もわからないから、家電に詳しい友人に相談していた、と。試しに青いボタンを押してみたら水が出て来たんで、どうやら水を作り出す装置ってことはわかったみたいです。で、たまたま落としたら分裂したんで、分裂することも知ってたと。……やっぱり神父さんも同じこと考えてたんだ。装置をたくさん分裂させて、それを貧しいご家庭に行き渡るようにしてはどうか?みたいな。そのための協力を量販店の旦那に話してますね」 「なるほど、だから島の周辺から十二個も装置が見つかったと」 「最終的には、格安で家電量販店の旦那に売って貰うことになったみたいで。同時に……これを作った技術者に名乗り出てくれるよう呼び掛けていたみたいですが、ついぞそれは見つからなかったらしいです」  ただ、とジェームズは笑い声を上げた。 「あんまりにもオーバーテクノロジーの産物なもんだから、これは宇宙人の産物だ、それを誰かが掘り起こしたんだー!みたいな噂が流れてたようで。確かにタト共和国のあの島って、宇宙人が大昔に降り立って作り上げたって伝説があったみたいですけど。ぷくくくく、宇宙人、ねえ」 「そんな笑うようなことじゃないだろ、ジェームズ。いいじゃないか宇宙人。私はロマンがあって素敵だと思うぞ」  なるほど、宇宙人。もしそうならこの世界にない科学力で作られていてもなんらおかしくはないだろう。 ――その作った宇宙人とやらは、もうこの世界にいないんだろうか。もしいるなら……感謝の言葉だけでも伝えたいものだが。  この世界にいない人種。この世界にない科学。この世界にはない、宇宙へ自在に飛び出す技術。想像するだけでわくわくが止まらないではないか。
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