<5・救世。>

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 そしてジェームズは笑っていたが、火星に生命体がいた痕跡も見つかっているし、宇宙船のように見える飛行物体も時折撮影されてはいる。宇宙人なる存在がこっそり地球に降り立っていてもなんらおかしくはないと、私は真剣にそう考えていた。 「ところで、結局この黄色のボタンと赤いボタンは押したことないんですよね。せっかくだし、押して何が起きるか確認します?」 「あ、待て。安全を確保してから……」  どうやら他のボタンが気になっていたのはジェームズも同じだったらしい。彼は私の許可を得るより先に、黄色いボタンをぽちっと押してしまった。その瞬間。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」  ぶしゅうううううううううううう!と噴水のように水が噴き出していた。あっという間に、私とジェームズはずぶ濡れになってしまう。  どうやら、この黄色いボタン、青いボタンよりも強く水が噴き出すという、それだけのボタンであったらしい。それにしても、このメシアの調査を始めてから一体何度目だろうか、びしょ濡れにされるのは。 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」  次の瞬間、ジェームズが大絶叫していた。 「ぼおおおおおおおおおおおおお僕のパソコンちゃんがあああああああああああああああああああああああああああ!!」 「あー……」  だから言わんこっちゃない、と私はため息をついた。  ジェームズのパソコンは見事水没し、画面が真っ暗になっていたのだから。ついでに、周辺に置かれていたファイルなども悲惨なことになった。  どうしてデスクの前で押してみようなんて思ってしまったのか、彼は。 ――こうなると、赤いボタンも多分ほとんど効果は同じか。噴き出す水の強さが変わるだけなんだろうな。  黄色いボタンをもう一度押せば、水流は即座に止まる。綺麗な水であるのはありがたいが、この勢いで水が出る必要があるのはシャワーを浴びたい時くらいだろう。庭で犬と水遊びしたい時も効果的かもしれないが。 ――念のため、赤いボタンを押すのはやめるようにとお触れを出しておくべきだな。精々、家中がびしょ濡れになる程度だろうが……クレームになっては事だ。  この時、私は気づいていなかった。  自分がどうして、装置の仕組みもボタンの役目もはっきりしないまま発表会を開いてしまったのか。  この状態のまま世界中に売りだそうと思ってしまった、その理由に。
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