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<6・実験。>
タト共和国タトロイア山に存在したフワムウボワズ教の教会。神父は名前をダリル・R・クロースと言った。
その友人である家電量販店店長の名前はロットン・アイク。二人は子供の頃からの幼馴染であり、大人になってもなお親交が深かったらしい。
神父であるダリルは、昔から少々不思議な力があったそうだ。といっても、サイコキネシスでものを浮かせるとか、未来が予知できるとかそんな大それたものではない。ただ、妙にカンが働くところがあった、のだとか。今日はこの道を通るのはやめておこう、と思った矢先に件の山道が雪崩で埋まったり。あるいは天気が良いように見えるけど雨が降る気がするからシーツを干すのをよそう、と思ったら本当に雨が降ったりといった具合。
予知ともいえぬほどの、本当に些細な力だ。だからこそ、ロットンはその力を信じていたようだし、ダリルも自身の力をちょっとでも人の役に立てたいと考えていたらしい。それは、水没したパソコンからかろうじて修復されたメールからも読み取れることだった。
「そんな人だったから、なんですかねえ?まさかの神父様も、宇宙人を信じてたっぽいって報告書にはあるっす。ほら、メール本文も添付されてる」
「ほらみろ、ロマンを信じる人はいるんだ。神父様さえそうなんだぞ?ジェームズ、お前も人の話を簡単に笑うのはやめたまえよ」
「す、すんません」
復旧されたデータや調査報告書は、少しずつ研究所のパソコンに送られてきていた。現在は“メシア”についてさらなる調査を進めるべく、試験運用を行っている最中である。
まだ数百個程度の数だが、量産したメシアを国のあちこちの一般家庭に配布して、使用感を報告してもらうということをしていた。
勿論、黄色いボタンと赤いボタンは派手に水が噴き出し過ぎるので、基本的には使わないようにと頼んでいる。ただ飲み水を出すためだけならば、青いボタンを押すだけで十分事足りるからだ。
同時に、床に落として無闇に分裂させることもやめてほしいとお願いしていた。ボタンを押してスイッチを入れている時しか分裂しないとはいえ、無限に増えるようではさすがに生活に支障を来す。製品上のどうのというより、物質的な問題でだ。
今のところ、どこのテストプレイヤーたちからも異常は報告されてきてはいない。むしろ水道代が節約になって助かっている、ものすごく美味しいお水で嬉しい、という声ばかりだ。――赤ちゃんがうっかりボタンに触ってしまって、床を水浸しにしてしまった、なんて報告もあるにはあったが。
――神父様も言っていた通り、この装置は……世界を救うメシアになりうるものだ。宇宙人が我々に託してくれたのだ。
メールの中で、神父と店長はこのような会話をしている。
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