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『私は、この丸い装置は……人外の存在の置き土産のように思えてならないのだ、ロットン。人間に、質量保存の法則を無視したこのような機械が作れるとは思えない。その人外は神か、あるいは宇宙人か。なんにせよ、科学という神を信じる私の元にそれが来たことは、運命だったとしか思えないのだ』
『確かにな。しかしダリルよ、お前さんも欲がない。こいつ、高値で世界中に売れば大儲けできるぜ?今みたいな、清貧の生活をする必要もなくなるのに』
『その金で孤児院を建てるのも悪くはないとは思ったが……しかし、本当にこの装置を欲しがっているのは貧しいご家庭ばかり。大金を取ることなどできんよ。私はただ、私が神から与えられたもので皆が幸せになってくれればそれでいいのだ。それが宇宙人の、ちょっとした気まぐれの置き土産だったとしても』
『そういう人間だから、あんたは好かれるんだろうな。……今のところ、装置の売れ行きは好調だ。島中の人がこの装置を欲しがっているよ。しかし、いいのかよ?この金、慈善団体に全額寄付なんて』
『いいんだ、いいんだ。ああ、君の取り分は貰って構わないよ。店に置いて貰えるだけで十分すぎるほどありがたいからね』
いかにダリル神父が欲のない人間であったか。そしてロットンをはじめとした住民たちに好かれていたかがわかるやり取りだ。
そう、彼らはあくまで慈善事業の一環として、町の人々にメシアを与えて喜んでもらおうとしていた。実際、家電量販店でメシアは飛ぶように売れていたそうだ。島中の家庭に行き渡っていたのはほぼ間違いないことだろう。
そう、それまではいい。気になるのは、島が洪水で押し流される数日前のやり取りだ。
『そういえばダリル。どうしてこの装置、仕組みもわからないのに俺の店に置こうなんて思ったんだ?慎重派のお前のことだ、青いボタン以外を押したらどうなるか、も試さずにみんなにバラ撒くつーのはちょっと意外だったんだが。それとも、他のボタンを押したらどうなるか知ってるのかよ?』
ロットンのそんなメールに、ダリル神父はこう返している。
『そういえばそうだ。いや、黄色いボタンは押したんだ。青いボタンより水が多く噴き出すってことがわかっている。しかし……赤いボタンは押していない。より多く水が出るんだろうなとは思っているがそれだけだ。……何故だ?自分でも不思議に思ってきた。どうして、赤いボタンを押すこともしないまま、私は島中の家庭に装置を配るようなことをしたのだろう?実は危険があるかもしれないのに』
『危険ねえ。お前の教会が水没するくらい水が出るとか?』
『私もそのように考えている。それは困るので、まだ赤いボタンは押していない。ただ。……困ったことに最近、気づくと装置を手に取って考えているのだ。このボタンを押してみたい、押してみたい、と。なあ、君もそのように思うことはないか?』
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