<1・懺悔。>

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 *** 「うっわ……なんじゃこりゃ」  ヘリコプターの窓から見えたその光景に、私は思わず声を上げていた。 「何がどうして、こんなことになっちまったんだ?あの島は」 「それがわからないから、我々が派遣されてきてるんですってば。アドコック博士」  私の問いに、助手のジェームズが答える。それもそうか、と私は息を吐いた。衛星写真だけで全てが解決できたのであれば、世界連合の科学研究部門から自分達が飛んでくる必要もなかったに違いない。  私、ハロルド・アドコックは、世界連合の研究施設に勤める科学者である。科学研究室にて、一応所長と呼ばれる立場であることを明記しておく。といっても、世界連合の科学研究部門にはいくつもラボが存在しているため、所長は私以外にもあと数十人はいるわけだったが。  2XXX年。  ある小さな島国が、突如として異常気象に見舞われて沈黙した。  正確には異常気象だったのかは定かではない。ただ島全体が突然海に沈んでしまったこと、連日その島国周辺では雨が続いていたことなどから、大雨による洪水で土地そのものが洗い流されてしまったのでは?という説が有力だった。  水は人の命を支える重要なものであると同時に、牙をむけばこれほど恐ろしい凶器もない。  洪水で流されてしまったその島は、島一つがタト共和国という小さな国だった。大国から小国まで様々な国と関係を結び、小さくとも豊かな自然を持ち、観光地としても人気のスポットとなっていたのである。  それが一晩にして、何もかも崩壊してしまった。大雨の夜以降タト共和国にあるすべての大使館とは連絡が取れず、国の住民も観光客たちも全て行方不明。大陸から離れた島国だったことと、嵐で海が荒れていて近づけなかったことにより調査団も救助隊も派遣が遅れてしまったのだった。  とりあえず、三日ほど前からどうにか救助隊の一部は送り込まれていたものの、状況はカオスの一言に尽きる――とのこと。何が原因でこんなことになってしまったのかわからない、正式に調査団派遣を依頼したいと要請が来た。というわけで先遣隊として、私達がこの島に送り込まれることになったのである。 「なんというか、まあ」  私は窓の外を見て呟くしかない。 「陸地が元はどこにあったのか、もはやさっぱりわからん状態だな……」  データによれば、元々は島の八割が森だったはずだ。残り二割に市街地と、それから砂浜などが存在していたと聞く。  しかし今、私の目に映るものは茶色の泥の塊が、青い海の真ん中にどろどろと浮いている景色だ。これが島だったなんて一体誰が予想できるだろう?かろうじて、一部の岩場と、森の枝らしきものが泥の中から時折突き出しているばかり。なるほどこんな有様では、救出も調査も遅々として進まないのも当然のことである。なんせ、救出隊がまともに仮設キャンプを作ることさえままならないのだから。 「これは、ヘリを下ろす場所を探すのも一苦労じゃないのか?」 「ですね。……えーっとパイロットさん、そのへん大丈夫でしょうか?」 「今日は天候が良いので、なんとかあっちの岩山の上に降ろせると思います。少々お時間さえ頂けるのでしたら」 「ですって」  世界連合航空部隊所属のパイロットは優秀だ。ごつごつした岩場でもどうにか下ろして貰えるらしい。  ヘリに乗って既に一時間が経過している。このまま大地を踏むこともなく、故郷にとんぼ返りなんてのは避けたかったところだ。私はほっと胸をなでおろした。  もっとも、数日間気候が安定するだろうと見越して、調査開始日を今日に指定したのも私ではあるのだが。 ――突然の大雨で流された国、か。  地面がゆっくり近づいてくる。鼻につくのは腐った土と、植物と、それ以外のよくわからない異臭だ。  低気圧が去ってもう一週間以上経過するのに、まだこんなにも臭いが強い。本当に、この島で何が起きてしまったというのだろう。
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