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『俺は別に、そういうことはないが……』
そして。
最後にダリルは――あの大雨の日に、ロットンにこんなメールを送っているのだ。
『ボタンを押してみたい衝動が抑えられない。……教会で私が溺れ死んでいたら、馬鹿な男だと嗤ってくれ』
ダリル神父は、ボタンを押したのだろうか。この雰囲気だと、押した可能性は高そうではある。ただ。
「この装置から、噴水以上に水が噴き出したとて。神父が危惧していた通り、教会が水没する程度だったと思うんだが」
私は首を傾げた。
「さすがにそれで、島全体が水没するのは意味がわからない。無関係だよな?」
「僕もそう思いたいんですけどね。神父のダリルさん……と話しているロットンさんですっけ。この人は、別に赤いボタンを押したいとは思ってなかったみたいですし」
「うーむ……」
ひょっとしたら、このメシアにはそういう“精神汚染”するような効果が備わっている、なんてこともあるのだろうか。
実のところ、数日前から私は装置の赤いボタンが気になってしょうがなくなっているのだった。このボタンを押したら、どれほどの水が出てくるのだろう。ひょっとしたら、プール一杯溢れてしまうほどなのではないか。そうなれば、毎日多額の費用をつぎこんでいる研究所の水道代も大きく浮くこと間違いなしだ。
そもそも、ボタンを押したところで、もう一度ボタンを押せばスイッチは水流は止まるはずなのである。危なそうならすぐ止めてしまえばなんの問題もない。
――ダリル神父もそうしたはず。水が出過ぎて困るということなら、その場ですぐスイッチを切っただろう。……そもそも、発見された時メシアのスイッチは切れた状態だったのだ。やっぱり、洪水で島が流れたこととメシアは関係ないと思うのだが……。
万が一メシアのせいで何かが起きていた、のだとしたら。既にテストの名目で配ってしまっている製品を、全て回収しなければならないことになる。
私はジェームズに頼むことにした。
「この研究所で一番大きなプールを用意してくれ。そこにどれくらい水が溜まるか実験してみよう。安全のため、研究員全員プールから離れた場所に立ち、ロボットアームで赤いボタンを押してみるというのはどうだ?万が一水量や勢いが危険と判断されたら、即座にスイッチを切るということで」
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