<6・実験。>

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 ***  私の判断は、どこで間違ったのだろうか。赤いボタンを押す実験そのものはおかしなものではなかったはずだ。安全には十分配慮したし、直接人の手でボタンを押すことも避けた。大きな50mプールも用意したし、万全の準備を行った上で実験を始めたはずだ。  それなのに。ああ、それなのに――一体どうして。 「み、水を……だ、誰か水を、水を止めろおおおおおおおおおおおおおお!」  赤いボタンを押した瞬間。ロボットアームが、壊れた。あまりにも強い勢いで噴き出した水の水圧に耐え切れず、バラバラに吹き飛んだのだ。  メシアはぐるぐると回転しながら、プールの中央で水をまき散らし始めた。その勢いは、とても人が近づけるようなものではない。そして、あっという間にプールを満水にし、排水の勢いを遥かに上回る水を放出し続けたのである。  水に飲みこまれた者達が次々溺れていく。  私とジェームズは慌てて研究所の外に飛び出し、裏手の山を駆け上った。そして、恐ろしい事実に気付いたのである。 「な、な、なにがどうなって……」  山の上で、私は見てしまった。  町のあちこちから水が勢いよく噴出している。煉瓦の屋根を吹き飛ばし、ビルの窓ガラスや扉を吹き飛ばし、道路に流れこんでは車も人も何もかも押し流していくのだ。 「二十八番研究所、三十五番研究所、テクノモーターズ、アジマ製作所……」  茫然といくつかの名前を、ジェームズが呟いた。なんだ、と私が振り返れば、彼は青い顔で言う。 「全部……分裂して増えたメシアの研究と管理を任せていた……施設と、企業です。水が噴き出してるの、そこじゃないですかね……!?」  その日。  一つの超大国が、海の底に沈んだ。よく晴れた日、雨など一切降っていない日。にも拘らず突如湧き出した大量の水によって押し流され、全てが水底に沈んでしまったのである。  そして、それですべては終わらなかった。水は、数百個の球体全てからえんえんと吹き出し続けたのである。陸続きの隣国はもちろん、海の向こうにも被害が及んだ。そもそも一気に海水が一気に何十メートルも上昇することになったのだから、被害が出ないはずがない。 「何故、あんなものを見つけてしまったのか、私は。私が、私が世紀の発見と浮かれなければ……!」  水底に沈む寸前。山の上の小屋で、私はひたすら懺悔を続けていた。 「あああ、あああ!全ては私の責任、私のせいだ、私の……!」
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