<6・実験。>

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 ***  そこは、水の惑星だった。  比喩でも誇張でもなんでもない。本当に、水以外はほとんど何もない星となり果てていた。ほんの数百年前にぼくらが訪れた時には、陸地も緑もあったはずだというのに。 「なんだかなあ」  泥の山の上に、ぽつんと残った白い球体。それを拾い上げながら、ぼくはため息をついたのだった。 「せっかく面白い惑星だったのに。こんな実験で潰しちゃうなんて、うちの上司ももったいないことするよね」 「そうかしら。所詮は七十億人程度しか人が住んでいない小さな惑星でしょ。気にするほどのものじゃないわよ」 「うーん」  ぼくの言葉に、同じく装置の回収を命じられた“相棒”の彼女が言う。笑うたびに青い唇から金色の歯が覗いた。相変わらず、キラキラ光って美しい。ぼく達の惑星では、その金色の歯が綺麗な人ほど美人とみなされる傾向にある。 「世界を水で壊す兵器ってのは面白い発想ではあるけどね。“本体”を持っている人をゆるやかに精神汚染して、破壊スイッチを押させる。だから兵器の実態がバレにくいってのはなかなか理想だし。赤い破壊スイッチを押した途端、その時点で存在する“本体とすべての分裂個体”から水が噴き出してすべてを水没させる……惑星まるごと壊すにはありっちゃあり」  ぼくは泥まみれの“兵器”をピンクの手で拭いながら言った。 「だけどさあ。破壊工作の途中でうっかり解除ボタンが押されちゃうと止まっちゃうっていうのは、なんかね。岩場にぶつかっただけでも止まっちゃうし。現にこの惑星、一回装置が発動しかけたのにすぐ止まっちゃって、島一個飲みこむだけで終わっちゃったみたいだし。今回も……全部沈みきってないから、まあ途中で止まってるよね」 「まだ改良の余地ありってことね、報告しましょ」 「そうだね」  ぼくは球体をぽーんと投げると、お尻から伸びたピンクの触手でキャッチした。昔からどうにも、両手両足でものを持つより、触手で握った方がしっくりくるぼくだ。そういう仲間は少なくないらしいか。 「さて、次に行こうか。僕らの“博士”はまだまだ秘密の道具をたくさん発明して、実験を心待ちにしているようだしね」
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