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屋上に出ると、生温かい夜の風が吹き付けた。うちの学校は公立のくせに校舎の階数が多いのだ。周りの建物が小さく見える。
「わー、星空じゃなくて夜景も見れそうだね」
瑞希がフェンス越しに下を見ながら言った。
「どーだろね、夜景だって言えるほど明かりの数ないけど、ここ」
「田舎だもんね」
「まあ都会ではないね」
わたしは返事をしながら、視線を上に向けた。今日は嬉しいことに晴れ渡っている。雲ひとつ無く、なんと新月という、まさに星空観察にうってつけの日だ。
「あ、星」
わたしは小さく声を上げた。瑞希もわたしに倣って上を見る。
「あ、ほんとだ」
「何個かな……四つ、五つ?」
「いや、もっと見えるよ」
遠くで天文部員が「目を慣らすともっと見えますよ」と他の誰かに言っている声が聞こえた。
「だって」
「ね、聞こえた」
わたしと瑞希は肩を寄せ合って夜空を見上げる。首が少し痛くなるけど、まだわたしたちの目には映らない星たちの数を考えたら、なんかすんごい壮大なところに生きてるんだって気持ちになって……痛いとか、どうでもよくなった。
「あ、見える星増え始めた」
「わたしも」
吸い込まれそうなほど真っ暗な空に、白い輝きが点々……と見えていたのがいつの間にかひしめき合って見えるようになってきた。
「天の川かな、あれ」
「だよね、わたしも思った」
「きれいだね」
ぽつりと呟いた。
「うん、きれい」
ぽつりと返す。
それからわたしたちは飽きるまで星を見続けた。他の人たちは望遠鏡の列に並び始めていたけれど、わたしと瑞希はそのままの夜空を見ていたかったのだ。
「ねぇ瑞希。ひとつ聞いていい?」
「なーに?」
「今日、これに来ようって思ったのはどうして?」
瑞希が星好きとかいう話は聞いたことなかった。というか、こういうイベントに参加するイメージがなかったから、彼女から誘ってきたときには少し驚いた。
「なんか、あれ? もしかしてわたしと二人になって話したいことがあったとか?」
少し心配そうな口調で聞くと、まさか、と瑞希は笑った。
「違うよ」
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