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その頃、深結は会社で事務の仕事をしながら小さなくしゃみをした。
「吉野さん寒い?暖房強くしようか」
隣のデスクの中年女性がそう言って深結に声をかけた。
「ありがとうございます。大丈夫です」
深結が笑うと女性は目を細めた。
「吉野さんみたいに可愛い子がうちの息子のお嫁さんになってくれたらどんなに幸せか……」
「あはは。急にどうしたんですか?」
「うちのバカ息子ときたらアニメだの声優だのライブだのって2次元の世界しか見ないもんで、そんなんじゃ一生結婚できないじゃない?」
ガックリ肩を落とす女性に深結は言った。
「わかりませんよ?そういう人に限って突然連れて来るもんですから」
「何を?」
「可愛い彼女を」
女性は一瞬間を置いてから大きな声で笑った。
「ないないない!」
「わかりませんって」
「そっか、ありがとう。じゃあ気長に待つとしますか」
女性はにっこり笑ったあと深結にきいた。
「後学のためにきくけど、今どきの若い子はどういうクリスマスを過ごすもんなの?」
「うーん……うちはあんまり今どきの若い子っぽくないもんで、あまり参考にはならないと思いますが……」
「そうなの?」
「はい。まぁ、家でまったりケンタッキーのチキンを食べて、安いワインを飲むくらいで」
「いいじゃない、素敵。吉野さんの彼ってカッコいい美容師さんなんでしょ?もうそれだけで素敵よ」
「ありがとうございます」
深結は確かに彼氏のカッコ良さならどこにも負けない、と心の中だけで頷いた。
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