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「槇原さんはクリスマスはどう過ごされるんですか?」
鏡越しにそう聞かれ、理玖はハサミを操る手は止めずにひとこと言った。
「恋人とまったり、かな」
「ホテルのスイートルームとか?サプライズとか?」
「……恋人と部屋でまったり、かな」
「いいなぁッ、槇原さんのおうち、おしゃれなんだろうなぁ」
客の女性は理玖の話をまじめに聞いていない。
とにかく理玖と何かしらの会話ができればいいのだ。
理玖は背が高く、顔も腕もいいので美容室のスタイリストの中でも客からの指名がダントツで多い。
そんなに口数が多い方ではないが、よく通る低い落ち着いた声に女性客はメロメロだ。
髪を触っている間の会話も美容師の仕事のうち。オーナーからそう言われているから努力はしているが、理玖は本当は仕事に専念したい。
どんな子でもその子に一番似合う髪型にしてあげたいし、カットやカラー、パーマを施すことで、その子の最高の状態を引き出したいと思うから。
でも、
ーー俺の1番はいつでも深結だけど。
理玖はこの店に客として訪れたことがきっかけでもう何年もつき合っていて同棲もしている恋人のことを思う。
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