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YouTuberですか?
「これまでの忍者は隠密のように影に隠れて活動してきたの」
「ぬうゥッ、だけど、それが本来の忍者なんじゃないですか?」
「でもねえェ。二十一世紀の忍者はSNSを活用して、世界へ発信していかないと生き残ってはいけないのよ」
咲耶は笑みを浮かべ、静かに首を横に振ってみせた。
「いやいやァ、どこのYouTuberですか。世界へ発信してって。Kポップアイドルですかァ?」
「フフゥン、良いこと。これからの甲賀忍者は忍ばない目立ちたがり系の忍者しか、生き残っていけない時代なの」
「そんなムチャクチャな……」
「そのために甲賀の女忍者はアイドル活動もしていかないと時代に取り残されてしまうのよ」
咲耶は立ち上がってダンスを舞った。アイドル顔負けのダンスだ。
「おおォーーーッ!」
周りのオーディエンスたちは歓声を上げた。
「いやいやァ、どんな女忍者ですか。アイドル活動って?」
堪らずボクは頭を抱えて聞き返した。忍者が目立つためにアイドル活動なんてあり得ない事だ。
だいたい忍者とアイドルの二刀流なんて聞いたことがない。
もっとも二十一世紀の現代に甲賀忍者がいると言うのもおかしな話しなのだが。
しかし他のクラスメイトはアイドルの咲耶を歓迎しているみたいだ。特に男子たちはすでに咲耶のトリコだ。
「フフゥン、良いねェ。咲耶ちゃん。じゃァオレがファン第一号ねえェ……」
同級生のハリーは咲耶をヨイショをした。
彼の本名は張本健一と言うが、クラスのみんなからはハリーと呼ばれていた。小学校三年生のときにはすでに、相対性理論を理解していたらしい。
異常に知能指数が高く天才なのだが、教師には反抗的だ。
特に嫌いな前任の担任には辛く当たり、事あるごとに難しい大学の入試問題を質問して精神的に追い詰めた。
ハリーにとっては簡単な問題でも前任の担任教師には、とても解けない難問ばかりだ。
おかげで前担任は精神を蝕み休業し、現在は自宅療養しているらしい。
しかし原因は前担任にあった。可愛らしい女子だけを依怙贔屓して、頭の悪い男子にはツラく当たった事がきっかけだった。
ハリーは弱いものイジメをする大人を許せなかったようだ。
それにしても怖ろしい少年だ。幸いボクのことは嫌いではないらしく、これまではちゃんと授業を受けていた。
他のクラスメイトたちも咲耶の周りに集まっていた。
「ボクもファンになるよ」
「オレもオレも……」
次々と咲耶のファンが増加していった。
すでに男子生徒たちのほとんどがハリーに加担し咲耶のファンになったみたいだ。
だが当然、これだけ応援する者がいればアンチも出てくる。
「先生ッ、そんなイロモノは放っておいて、授業を再開したら?」
不意に、前列に陣取った美少女セレブの龍宮院姫香はスマホを弄りながらクレームをつけた。
しかしこちらを無視するように、いっさい視線を向けない。手に持ったスマホを弄ったままだ。
彼女は龍宮院財閥の令嬢でこれまでスクールカーストのトップに君臨していた。クラスの女子はみんな姫香の言いなりだ。
彼女を敵に回すと厄介なこと、この上ない。
「いや、まァそうなんだけどねえェ」
ボクは苦笑いを浮かべた。
龍宮院姫香の言う通り授業を再開したいのは山々なのだが、咲耶の事も放っておけない。
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