犬喰いの神

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私?私はただの詩人だ。犬が欲しいかって?犬は…な。村の風習ってやつさ。私はずっとそれに囚われるんだろうよ。まぁ、それだけのことをした。 それは昔、遥か昔の物語。今や、それを見たのは、私だけ。いずれ廃れる物語… 〜〜 あるところに、その男はいた。 その男はとある、村にいた。 えっ?早く言えって?いや、落ち着いて聞きなさんな。すぐ終わるもんだ。どこまで話したか…あぁ、そうだった。では、続きを。 その村は、酷く乾燥していて、酷く雪の降る所で、植物の殆どは育たない。 まさに、不毛な土地だった。 あれが起こったのは、とある年だった。 それはまるで、神が降臨したかのようだった。 いや、実際そうなのかもしれない。 その日、犬が現れた。 毎日ほとんど何も獲れないが、その年は特に獲れない。 そんな、冬のある日だった。 犬と共に猟に出ていた猟師の一人が、犬を引っ提げて帰ってきた。 こいつぁ神様だ。と言いつつ。 どういうことだ?と、そりゃまぁ思うさ。当時はまだ、良かった。まだ、な。 獲物も木の実も全てどこにあるか教えてくれる。 そう、男は言った。 村の者は皆、疑っていたが、そいつが持ってきた量は、普段より明らかに多かった。 だから、とりあえず様子を見ることとなった。 その犬は少しずつ、少しずつだが弱り始めた。 それと同時に、周りの植物が、少し増えたような気がしていた。 そんな中で、いっそう、冬が厳しくなった日があった。 その日、その神様は、元気になったように見えた。 でも突然、男が元々連れていた犬が死んだ。 外傷も何も無く、本当に突然であった。 もう、その犬とは十二年来の付き合いだった筈だ。 勿論、そいつは悲しみにくれるのが当然だ。 でも、そいつは血迷ったのか、死んだ犬を、神様と呼んでいた犬に差し出した。 これを貴方様に献上します。 それがこの犬にとっても本望でしょう。 喰ってやってください。 って言ってな。 村の者は皆、正気か?と言った。まぁ、そりゃあそうだ。当時は、どれだけ頭が壊れていたのか…。 神様は、男の差し出した死んだ犬を、喰った。 それからが始まりだった。 猟師の一人が飼っていた犬が死んでから、他の犬達も突然死んだ。 それでも神様は、元気だった。 その内、村の周りの木が折れ出した。 中が腐っていたのだ。 でも、村の中の植物には元気が湧いてくるようであった。 小春日和の日も増え、村の周りの木が倒れきり、見晴らしが良くなってきた頃、村の一人が町に行き、犬を連れ帰って来た。 その犬は、三日で死んだ。 外傷は無く、神様が来てから死んだ犬と、同じ死に方だった。 もう、村の人達も恐れ慄いた。 だが、村から出ることは叶わない。 村にしか、居場所が無かったから。 先祖伝来の土地を、守りぬきたかったから。 そんな生活が二年程続いた頃だった。 赤ん坊が生まれた。 猟師の男のところだ。 嫁は初出産で、待望の子供だった。 が、死んだ。 生まれて一週間もしない内に、犬達と同じ死に方をした。 村の者達は皆、これは呪いだと言った。 それならどうすればいいと、町の奴に聞きに行った奴がいた。 町の奴らは、こっちに来るな穢らわしい。 呪いが移る。 村に戻れ。 と言ったそうだ。 それからしばらくして、町から陰陽師なるものがやって来た。 ものの、二日で死んだ。 衰弱していく中で、何かの儀式をやっていた最中に、犬達と同じように死んだ。 次は、学者、なるものが来た。 ものの、一日で死んだ。 でも、学者は、最期に、死ぬやつと死なないやつの見分けができるようになった。 余所者か、余所者じゃないか、だ。 このことは、どこからか知れ渡った。 もう、この村には誰も人が来なくなった。 そして、村の人もその内に、逝った。 〜〜〜 だから、村の奴らにとっては、犬は縁起が悪いのさ。誰も犬を飼いたがらないも当然だろう? ちなみにその神様は、今もいる。 この前村人が消えたあの村も、多分神様の仕業さ。今も神様は、村に呪いを植え付けている。 えっ?ここまで聞いて分からないのか?察しの悪いやつだ。話を聞いていたのか?あぁ、もう。分かったから。勿体ぶらずに話すって。 神様の加護は、村と、村の人達への加護。こっちからしてみれば、呪いだがな。 村には豊作を約束し、余所者を消し去る加護。余所者ってのは、神様が来た当時の村の人達以外の奴全員だ。だから、赤ん坊も死んじまった。 村の人達へは、完全な健康を約束した。だから、当時の奴らには、百六十年くらい生きた奴もいた。しかも不老だったようで、最期まで老いを感じなかったよ。 あと…もっととんでもない加護…呪いだ。それを、もらったのが、一人いた。そいつは神様を見つけた猟師なんだが…不死だよ。まぁ、何をやっても死なない、死ねない存在だ。今も生きているよ。あの事件をを知るのはもうそいつだけでな… 俺がなんで知っているかって?まぁ、どうでもいいだろう?えっ、気になるって? ははは…頭を貫いても、死ねない。そんな不死(拷問)を求める奴の気が知れない。
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