遭遇

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遭遇

 英人は何もない芝原に立っていた。目の前には通常サイズの柴犬がいて、くるりと巻いた尾をゆったりと左右に振っている。 「ハッチ号か?」  舌を出した犬は返事もせず、ただ彼を見返すばかりだった。 「宇宙犬、なんだろ? ここで何を、なぜ小さくなった」  英人は、「また夢だろうか」と首を捻った。  突然、若い男性の声がした。 「エイトさん、ですよね?」  犬から発せられているようだ。彼は急に声を失って、首を縦に振った。 「初めまして。ハッチ・C・( クローン)ジュニアです。あなたを探していました」  犬はひょこひょこ歩いて、彼の正面に立った。毛皮から立ち上る匂いが、英人の鼻をくすぐる。 「ハッチ……じゃないのか」 「私はハッチのクローン体、いわば息子(ジュニア)です。彼の代理で来ました」  英人は屈んで、おそるおそる手を差し伸べた。嫌がる風ではなかったので、そっと首筋に触れた。滑らかな手触りの、金属で出来た首輪がそこにあった。 「それは意思疎通と、変身のために使われる装具です」 「あの巨大な柴……宇宙犬はやはり君なのか」  ジュニアは首輪を彼の手に押し付けるようにした。 「ご明察です。初めて訪れる地球で探し物をするのに、あの身体が必要でした。私たちの友人が首輪型 𝛳 (テータ)カプセルを用意してくれたのです。それで私の身体情報を多層宇宙の別次元にあるエネルギーで再構築して三次元空間に具現化し、地球大気圏への突入と地上での探索行動を可能にしました」 「よく分からない。宇宙で育った柴犬は賢いね」 「私にも意味は分かりません。どうもヒトの乳幼児ていどの知能しかないそうですから。親切な友人たちが、私でも扱えるように首輪を作ってくれました」  ジュニアは首を振って、「ハッチにもよくしてくれてます」と付け足した。 「つまりハッチ……と君は、ふだん異星人と幸せに暮らしているということ?」 「あなたが、ハッチの言っていたとおりのヒトでよかった」  英人が首を傾げると、ジュニアは、「遠くまで来た甲斐があった、ということです」と短く告げた。 「ハッチの人生は、そろそろ終わりを迎えようとしています」  だからあなたを探しに来たのです、と犬は吠えた。
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