ミステリーツアー

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         -24-        ~数か月後~ 「いらっしゃいませ! あ、またご利用いただきありがとうございます! あの・・・事故のことはとても残念に思います」  私は信一さんと初音温泉旅館を訪れた。女性スタッフは私のことを覚えていた。  私は信一さんと、211号室に泊った。何度か食べた(実際には1度だと思う)同じ内容の夕食も彼と一緒なら一層美味しく感じた。夕食後、貸し切り温泉を頼んで、二人で露天風呂から鹿津湖を眺めた。感無量だった。  翌朝、スタッフの皆さんに見送られながら、私たちは初音温泉旅館を後にした。レンタカーで少し走って、事故のあったトンネルの入り口付近に車を停め、そこに設けられた献花台に花を手向けた。そして私たちはまた走り出した。  暗く狭いトンネルに入った。事故現場らしい地点を通り過ぎた時「ありがとう」という声が聞こえた。誰の声かは分からない。私は運転に集中している信一さんに、そのことは伝えなかった。  それから、私たちはS町先住民族博物館に着いた。初音温泉旅館に泊まること以外、旅程は全て信一さんに任せていた。私は思わず聞いた。 「信一さん。今日の旅程って決めてあるの?」 「もう行く先は決めてあるよ。どこに行くのかはお楽しみに」  先住民族博物館を見学したあと、次に向かったのは地獄坂温泉郷だった。そして高野湖で遊覧船に乗り、きのこ天国できのこ汁を食べた。 「すごくおいしいね。これが110円なんて信じられない」 「うん・・・」 「このなめ茸、おいしいね。お土産に買っていこう」  あのミステリーツアーの時とまるで同じコースを私たちは廻った。この辺りを観光するなら、必然的にこの旅程になるのかもしれない。 「ねえ、一つだけ聞いてもいい?」 「いいよ」 「次に行く場所って・・・」 「秘境の宿だよ。由香里もとっても気に入ると思うよ」 「そう・・・」  たとえどこに向かおうとも、私は信一さんのそばにいられれば、それでいいと思った。          完      『ミステリーツアー』
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