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尾のない狐と混血狐【和風/幻想】
深い森の奥。静寂が支配する空間。
わたしは父の使いである男を探していた。
「おや、懐かしい気配がすると思ったのですが……どうやら私の勘違いだったみたいですね」
いつの間にか、わたしの背後に銀髪の美丈夫が立っていた。
気配がなかったこと、それに浮世離れした美しさからこの男が人間じゃないと判断する。
「……うーん、君、人間と上位の善狐との混血だったりします?」
「……だったらどうしたというの?」
質問を質問で返すと、複雑そうな顔をして考え込んでしまった。
善狐とは神や陰陽師などに仕える狐のこと。基本的に悪さはしない。
さらに、善狐の上位とされているのが天狐と呼ばれる尾が四本の狐だ。
ちなみに、九尾が最強とか言われているのは野狐の方。
野狐とは人を化かしたり、悪さをする野良の化け狐のことだ。
「まあいいでしょう。私に何か用ですか、混血の娘よ」
目の前にいるこの男に尾はない。隠しているのか、あるいは……。
どのみち、上位の善狐なのは確かだ。
「父からあなた宛に文を預かってきた」
この森にいる銀色の狐・蘇芳へ手紙を届けること、それがわたしの任務だった。
彼は差し出した手紙を素直に受け取り、開封する。
「……なるほど、君は縹の」
手紙を読んで何か納得したのか、彼は呟きながら読み進めていく。
「……残念ですが、私は協力しません。帰ってください」
最後まで読み上げた蘇芳が口にした答えは拒絶だった。
手紙を渡せば必ず来てくれる、そう父から聞いていたのに……。
「見ての通り、私は空狐……尾のない最上位の善狐です」
妖力だけなら天狐をも凌ぐと言われている空狐。それを実際に見るのは初めてだった。
「神の域にまで達した私は人に干渉せず暮らしています。人とは関わりたくない」
明らかな拒絶。その原因をわたしは知らない。
だけど、蘇芳を連れて帰らなくては皆を困らせてしまう。
「野狐が暴れているのなら、天狐たちが押さえれば良いだけ。わざわざ、私が出向く必要なんてない」
「それでも、あなたの力が必要なんだよ!」
言い返すと、少しだけ意外そうな顔をして黙り込んでしまう。
「どうしても、と言うのなら一つ提案があります。君が私の下僕になるのなら、一緒に行ってあげましょう」
それはつまり、一生、蘇芳に仕えなくてはいけないと言うこと。
迷っている暇なんてなかったから、力一杯頷いた。
「それであなたが力を貸してくれるのなら構わない」
「では、主従の契約は君の父である縹に立ち会って貰うとしましょう」
先程までの真剣な顔はどこへやら……。満面の笑みで俺の手を引く。
――嵌められた!?
「あ、君が下僕にならなかったら本当に私は力を貸しませんでしたから。悪く思わないでくださいね」
笑顔で言う蘇芳に、殺意に似た感情を覚える。でも、きっと逆らえない。
出会った――目を合わせたときから、あの瞬間から、わたしは彼に囚われているのだから。
**************
(ちょこっと解説)
蘇芳は赤系の色。
縹は青系の色。
「わたし」は瑠璃。紫に近い青。
二次創作キャラでの創作パロディ(過去作)より、キャラを変えて加筆修正。
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