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本来あるべき自我を塗り替え、人格を作り替える。自分のやっていることが、世間から白い目で見られていることは知っていた。それに洗脳という言葉が与えられ、いかにも禍々しいことのように畏怖されているのも理解しているつもりだ。
だが、これは私の崇高な使命なのである。私にしかできない極限にして究極の難解意義、神の所業にも等しい素晴らしい行為。
ガラスの壁の向こうで暴れる被験体の男を、醒めた目で眺める。
最初は我々の研究を邪魔する危険因子かと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。
あの男は、どんな教育を受けようとも、その前世での価値観を失うことはない。それは確かだ。と同時に、当時のスズキヒロトという人格を忘れることもなかった。
「そう、染みついてるんだよ。その前世というものが、お前の中に深く」
ブルギィはぼそりとつぶやいた。前の人生の全てを記憶し、未だに当時の人格と自我を忘れられない男を羨むように、ねっとりとした口調で。
「螺旋を描くようにして、君自身という支柱に強く強く絡みつくもうひとつの『自分』。それを、私も再現したいんだ!」
──嗚呼、なんという耽美な糸。スズキヒロトという青年よ、お前のゼンセと今を繋ぐ糸は本当に力強いのだな。誰が何をしようと、途切れることはない。美しいものだよ。
そう言って口の周りを舐めながら、ブルギィは目を輝かせた。
「それでは見せてくれ、お前の糸を。螺旋状に絡んだ前世の記憶。例えるならば、まるで過去と今を結ぶ赤い糸のようなその過去を!」
(完)
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